【深圳と香港】
1980年代以降、わずか人口3万人の漁村から、経済特区としてアジアを代表する電脳都市となった深圳は、香港と大陸を繋ぐ都市或いは地域としての役割を持つ。
しかし、同時に、ニセブランドや大陸への密輸の温床としての側面も持っている。
一方で香港はこの時代には、未だにアジアの金融、経済の中心であり、一国二制度の恩恵を受ける、中国の中の西洋であった。
深圳は猥雑ではあるが、若さとエネルギーを象徴し、香港は成熟と洗練を象徴しているようであり、2つの都市の性格は、作品の中では、対比される存在である。
そんな深圳で生活し、香港の学校へ通う少女。
彼女は結果としてiPhoneの密輸の片棒を担ぐことになる訳であるが、善悪の判断よりも、お金を稼ぐということへの執着が先になってしまう辺り、若くて向こう見ずなエネルギーが感じられる。
これは、若く活力に溢れた、しかし未だ洗練されていない深圳そのもののようである。
成熟した日本の高校生で、お金のためにこのようなことに手を染める者など居ないだろう。
若い国や都市の人々が発する独特の活力やエネルギーは、法による秩序から逸脱する場合も多々あるが、社会を発展させる起爆剤でもある。
日本への旅行を夢見る少女の、若さゆえの活力や執着から、当時の深圳、香港の風のようなものが感じられる。
今となっては、これもまた古きよき時代の記録となるのであろうか。