カツマ

バード・ボックスのカツマのレビュー・感想・評価

バード・ボックス(2018年製作の映画)
3.7
閉ざされた視界の上を蠢く死神。それを見たら最後、人は死の淵へとダイヴしていき壮絶な最期を遂げる。その死神とは抽象化された恐怖の対象なのか。それすらも見ることができない。それを見たら『死ぬ』のだから。

五感の一つを奪われる、妊婦が主人公、という点において今年の大ヒットホラー映画『クワイエット・プレイス』を連想させるが、圧倒的に違うのは襲いくる何かの描かれ方と、それを見た人間が100%死ぬわけではないという設定。悪人にとっては心地よく、そうでないものには自殺を招く、という設定は人間もまた恐怖の対象だということを如実に伝えているように思えた。

〜あらすじ〜

テレビで報道される大量自殺事件は世界を大混乱に陥れ、東欧を発端に少しずつ世界中へと拡大していた。舞台はその毒牙がヒタヒタと忍び寄るアメリカ大陸。
その日、妊婦のマロリーは何かと説教しがちな妹のジェシカにようやく子供を身ごもったことを伝えたが、子供の父親はおらず、そこでジェシカに付き添いを頼むことにした。
そして来院当日、マロリーとジェシカは病院の帰りに謎の大量自殺現象に遭遇。何とか車で危機を回避しようとするも、『何か』を目撃したジェシカは自らトラックに突っ込んで自殺した。
残されたマロリーは悲しみの中、近くの一軒家に逃げ延びる。そこには数人の避難者がおり、テレビはついにアメリカも大量自殺現象に巻き込まれたことを告げていた。果たしてその原因は何か。人類はこのまま滅亡してしまうのか。

〜見どころと感想〜

ネットフリックスが年末商戦に送り込むほど自信を込めた一本かと思われる。それもそのはず、主演は圧倒的な存在感を放つサンドラ・ブロック。そして助演に『ムーンライト』で有名になったトレヴァンテ・ローズ、ベテラン俳優ジョン・マルコヴィッチなど盤石な布陣を敷いてきた。

驚いたのは監督がスサンネ・ビアだったということ!デンマークで重厚なドラマを作り続けてきた彼が、アメリカに進出してこんな大作を撮るようになっていたとは。特に川下りのシーンにはスサンネの自然を冷たく切り取るような北欧風の描写が活きていて、彼の個性は映像の部分でしっかりと表現されている。

襲いくる何かが見えない設定になっているため、鑑賞者に創造、連想させる、視覚化されない恐怖を描いたうえで新感覚のホラー映画と言えそう。『バード・ボックス』というタイトルの意味を紐解きながら、過去と未来を行き来して、ある女性の成長物語としても機能した作品でした。

〜あとがき〜

ホラー映画は設定と脚本でいくらでも野心的な作品を作れるということが分かります。この映画はなかでも『ミスト』に似ている舞台背景を持っていて、そこに『クワイエット・プレイス』的な設定が追加されています。

ショック描写も少なく、脅かし要素もほぼ皆無なため、ホラー苦手な人にも勧められる作品かなと思いますね。
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