Masato

キラーズ・オブ・ザ・フラワームーンのMasatoのレビュー・感想・評価

3.7

スコセッシ監督最新作。200Mドルもの予算をかけた超大作クライムドラマ。(100Mくらいの規模感で予算ほどのリッチさは感じられない)

ギャング映画の文脈で語られる大量の殺人事件。これを前提に見ておかないと、ミステリーやらサスペンスやらの要素がほとんど排除されているので面喰らう。前評判で聞いていたが、すっかり忘れてミステリーを前提として見始めたため、前半は混乱した。

白人によるネイティブアメリカンへの迫害の歴史。経済の格差が逆転してしまっていても、白人たちは自らが至上の人種であるという妄想から離れられず、当然かのように迫害をしていく。そのバカさ加減には苦笑しつつも、金にむらがる気色悪い白人連中たちの愚かさ、そして簡単に人を殺していく残虐的な恐ろしさが浮き彫りになる。これは金と暴力が映えるギャング映画の文脈で語られたからこそできたことであるのは確かで、スコセッシ監督ならではの物語ではあった。

主人公がドス黒い罪人というわけではなく、巻き込まれる形で犯罪者になっていく。良く言えば普通の人、悪く言えば所詮小物で自分のやっていることの愚かさを理解していない間抜け。このあたりがスコセッシらしい。グッドフェローズの、ジョー・ペシとデ・ニーロに圧倒させられているレイ・リオッタ的な感じ。

ネイティブアメリカンのオセージ族はオイルマネーでとんでもない富豪になっていて、白人をメイドにするくらいに格差が逆転していたのには驚いた。しかしそれでも迫害は続く。この殺人の根源って、やっぱ俺達白人を差し置いて裕福になってる非白人はおかしいっていう感情があるのだろうね。だから人を淡々と殺せる。それとも暴力が当然の時代だったからか?。全然知らなかったネイティブアメリカンの歴史を知ることができたことは本当に良い映画だと思う。

だが個人的にうーんな点も。サスペンスやミステリーを排除しているせいで前半は良くわからなくなっていたし、上質な監督力とその他スタッフたちの手腕により面白くはなっていたが、長尺に耐えかねる地味な物語に。なにより、この話で白人の男性が主軸として語られていくのもあまり好ましくない。こんだけネイティブアメリカンの人たちが蹂躙された事件なんだから、モリーとかを主軸とかにして語って欲しいと思った。

監督は端々にオセージ族の当時の経済状況や文化的描写などを散りばめていて、可能な限りリスペクトを込めてはいるものの、この話を白人男性のドラマをメインにしてギャング映画の文脈にしてしまっていること自体が、やはりリスペクトには今ひとつという気がした。白人の愚かさ、加害者の視点は描かれていたが、オセージ族が受けてきた屈辱に対するメッセージは今ひとつ。アーネストのドラマなんてどうでも良くて、モリーやその他のオセージ族の方たちのドラマをもっと見たかった。

ディカプリオとデ・ニーロは安定。素晴らしい。サイコ役でお馴染みのジェシー・プレモンスは最近良い人役多いけど、柔和な雰囲気でめっちゃ似合う。リリー・グラッドストーンは他の俳優たちとは違って抑えた演技で派手さはないけど、自然な演技で良かった。
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