前方後円墳

ユメノ銀河の前方後円墳のレビュー・感想・評価

ユメノ銀河(1997年製作の映画)
4.0
夢野久作原作小説『少女地獄』の一編、『殺人リレー』を映画化。
婚約者を殺す、連続殺人犯かもしれない男、新高竜夫(浅野忠信)を好きになってしまった女、友成トミ子(小嶺麗奈)の恋物語をサスペンスの味わいで描いている。だが、緊張感はどちらかといえば抑え気味で、二人のちょっとミステリアスで非日常的な空気を映像に活かすことを大事したような演出でかなり落ち着いた作品になっている。
モノクロームの映像がとても美しく、小嶺麗奈と浅野忠信のあまり動かない人形のような表情が幻想的オーラの広がりを増している。その静謐ともいえる薄暗がりの中でトミ子は強くで情熱的な恋心を秘めている。その蠢きがどこか小さな地獄のようなのだ。が、自分も殺されるかもしれないのに、何を考えているかわからないような男、新高から逃れられない地獄の中でトミ子は苦しんでいるのではなく、花ひらくような輝きを見せる。その地獄に咲いた一輪の花のような驚きがある。小嶺麗奈は決して演技が上手いわけではないし、カラー映像作品の中ではそれほど目を引くようなイメージはない。しかし本作品ではモノクロ映像の中で、少したどたどしい台詞を言わせることで、レトロさとかわいらしさとわずかばかりの妖艶さが混ざり合って、幻想的な存在感を持つようになる。

「わたしが降りたら、わたしのこと、轢くんでしょ」というようなトミ子の台詞がある。ここには恐怖よりも、彼女の命を投げ出す反作用として、何よりも生命を感じることができる歓喜が見て取れる。それはとても彼女のカタルシスであり、エクスタシーのようで淫猥な響きさえも含まれているようだ。
そして、人を見つめることでひと時を費やせる幸福があり、そこには愛情と憎悪がない交ぜになっている。トミ子と新高が口を開く度に生み出される地獄の中でトミ子は静かに拡がる艶やかなモノクロ銀河を見ていたのかもしれない。