和桜

ザ・ピーナッツバター・ファルコンの和桜のレビュー・感想・評価

3.9
映画スターを夢見るダウン症の青年が、監督にその想いを訴え爆誕したロードムービー。
プロレスラーを夢見て施設を飛び出す旅の始まりはそんな現実と重なり、出会いやプロレス演出を通して普遍的な寓話へと生まれ変わる。一人の夢を叶えた映画が大勢の心を動かした事実も素敵。

主演のザックだけでなくシャイア自身が演じる漁師も彼と重なる部分があって、こんなに楽しそうな姿は久しぶりじゃないかな。最近のだと『マン・ダウン』とかも良かったし『ハニーボーイ』も楽しみだけど、私生活が荒れすぎてる分心配になってしまうのも事実。こういう生き生き笑ってる姿を見ていると癒される。今作公開前にまた不祥事を起こしてしまったものの、ザックに叱られてアルコール依存症の治療を約束したというエピソードがまた良い。全力で応援してる。

ファンとしては来る者拒まずな最強のエンターテイメント、プロレスを絡めて対等な関係を描いた点も嬉しい。虚実入り混じったレスラーの姿は現実においてヒーローに最も近い存在だと思う。
エンパワーメントの話でも出来る側を描いて「障害があっても大丈夫!」と言い切られると複雑な気持ちになるんだけど、今作は演技ではなく実際に戦っている人間。出来る出来ない以前に人としての憧れみたいなものを強く抱いてしまった。
ある意味で優しすぎる世界なんだけど、差別や偏見を映すよりもそれを笑い飛ばすような良い意味での緩さや温かさがあって、ロードムービーとして本当に心地いい時間だった。
和桜

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