すずき

ザ・ライダーのすずきのレビュー・感想・評価

ザ・ライダー(2017年製作の映画)
4.4
ブレイディは現代のカウボーイの若者だったが、ロデオ中の事故により、右手に後遺症が残ってしまう。
彼は、父親と少し頭の弱い妹の3人でトレーラーハウスに住んでいた。
兄貴分だったレインも、やはりロデオの事故で重度の障害で現在リハビリ中。
しかし家の資金繰りが悪化し、ブレイディの愛馬ガスも売られてしまった。
ブレイディは生活費を稼ぐ為、スーパーで働きながら、なんとかロデオスターとして再起を図るのだが…

「ノマドランド」のクロエ・ジャオ監督の出世作。
この監督、中国生まれ中国育ちの女性監督だけど、この作品も驚くほどアメリカ的かつ男性的。
とは言っても私も米国人ではないので、この作品が正しくアメリカを捉えているかどうかは分かんないんだけど。

事故で夢を諦めざるを得なくなり、不器用に生きるしかない主人公の姿は、誰しもが何かしら共感できると思う。
ドクターストップされていても、自己を表現する方法がそれしか知らない、そんな主人公の姿は「レスラー」を思い出させる。
そちらも非常に男性的な作品だけど、オチの付け方は大きく違った。
花火の閃光のように一瞬の煌めきに全てをかけるのは美しいが、現実はその後も人生は続く。
ましてや、本作の主人公は「レスラー」と違い、まだ若い。守るべき者もいる。
彼の結末が「レスラー」と異なった選択をしたのも、当然だと思う。
どちらが正しい、ではなく、あくまで違う、というだけの話です。

しかし、この作品の馬はみんな演技上手で、可愛い過ぎる!
可愛いだけに、大変お辛いシーンもあるけれど…。
再起不能になれば死ぬしかない動物たち。
しかし現代社会に生きる人間は再起不能でも生き続けるしかない。
その時、君たちはどう生きるか?生きる意味を見出せるか?というテーマが主人公やレインに込められている。
ラストの「夢を諦めるな」という言葉が重過ぎる…。

映像は大変美しいが、明度が暗いシーンが多く、出来れば劇場で見たい。
夜明け前のシーンが妙に多いのは、「夜明け前が一番暗い」というシェイクスピアの有名な言葉を意識したのだろうか。