いの

ノベンバーのいののレビュー・感想・評価

ノベンバー(2017年製作の映画)
4.3
モノクロの映像。エストニアの寒村。木々に積もっている細やかな雪。窓の外に見える靄。月明り。川の流れに生じる無数の泡。「死者の日」には白い装束を纏った死者たちが光に包まれ向こうからこちらに静かに歩いてくる。「白」といっても実に多彩な白があるのだということに深く感じ入る。だから黒も実に多彩。水中の暗黒はまことに美しい。泥すら神聖なものに見えてくるけど、この神聖さは、猥雑なものとか畏れとか獣がれとかが全部あわさったような神聖さで、触れられないものではなく触れることのできる神聖さだと思った。いただいた聖餅は口から出して銃弾に変えるような逞しさ。低い位置から男爵の屋上をとらえる構図のたしかさ。男爵の屋敷の屋根の上の光と影。お嬢様と彼女を背後から抱きしめる人の、その光と影の美しさ。十字路の光と影の美しさ。


わたしの脳内の引き出しは収納量が少ないので、自分が知っている僅かなことからしか引き出せないのだけれど、色を抜いた鈴木清順監督作品のようでもあって、民話やキリスト教を盛り込んでいるということだけれども、監督はとても自由に創ったのだと感じた。映画の初っ端からしてやられてしまう「クラット」の造形に魅了される。カウボーイ空を跳ぶ、その自由さ。


何かを獲得するためには、自分の大切な何かを差し出さなければならない。逆に言うと、自分の魂を差し出してまで欲しいと願うもの。リーナのハンスへの愛。ハンスのお嬢様への愛。若者同士の愛だけじゃなく、さらっとなされる年老いたふたりの会話が、愛にさらなる深みを与える。感染症到来のような災厄の表現の仕方にも唸る。水中(や海中)の深みに女性がひとりで入っていく場面は、これまでは「ピアノ・レッスン」の一人勝ちだったけど、今作みたあとではツートップとなった。


-----

2日連続で鑑賞。2回目は劇伴きくだけで切なくなってしまった。いつか3度目の鑑賞した際には、もっとスコア上がる予感
いの

いの