ひでやん

ジョジョ・ラビットのひでやんのレビュー・感想・評価

ジョジョ・ラビット(2019年製作の映画)
4.3
心のヒトラーをぶっ飛ばせ!

イマジナリー・フレンドに鼓舞され、絶叫しながら家を飛び出す少年。そして流れるドイツ語版ビートルズ。大衆を熱狂させた声は「さあ、君の手を」と歌い、同じく大衆を熱狂させるヒトラー政権へ駆けていく少年。ナチスに忠誠を!国のために戦う君の手を!

おっそろしいっすわ。テンション爆上がりのオープニングに反して、青少年集団ヒトラーユーゲントが怖ろしい。忠誠心、命を奪う戦闘、命を落とす自己犠牲、人種差別など、純真無垢な子供たちに叩き込むってのは狂ってる。洗脳集団である。主人公のジョジョは弱虫ウサギと馬鹿にされるが、ウサギを殺せないジョジョが一番子供らしい。生まれた時代、場所が違えば子供らしく遊んで暮らせただろう。

ナチスとユダヤ人。幾度となく描かれてきた題材だが、10歳の目線で描くのは珍しい。自爆したジョジョが病院へ運ばれる時、ぼやけた視界を見ながら「そうか、子供の目線なんだ」と改めて思った。なので、誇張されたキャラクターや柔らかな色合い、軽快なテンポなど、重いテーマに反した演出は全て子供目線の世界で、おとぎ話のようだ。

不謹慎。そう言って切り捨てるのは野暮に思える。悪名高いナチスをコミカルに描いているが、茶化すわけでも美化するわけでもない。笑わせたいわけでも笑いたいわけでもない。戦争は悪夢だ。地獄だ。最悪のジョークだと笑うしかない。ロベルト・ベニーニやチャップリンもそう思っただろう。

愛は最強。流行歌や映画で使い古された言葉のように思えるが、ジョジョの母が言うと165キロの直球が胸に当たったようにズドンと響いた。どんな武器よりも強いが目に見えない。腹の中で蝶が飛び回る演出がいいね。ユニコーンを食らう場面も好きだった。腹の中から一匹だけ外に飛び出した蝶が、母の元へと導くような場面が印象的。

母に結んでもらう靴紐で「未熟」を、見覚えのある靴で「悲しみ」を、ジョジョが結んであげる靴紐で「成長」を描くのが上手い。前半はおとぎ話、後半は残酷な現実。色合いが暖色から寒色へと切り替わるのが強烈。もしも、自分が信じて疑わないものが、目の前にいる愛する人を迫害しているなら…自分はどうするだろう。心のチョビ髭を蹴っ飛ばす場面が実に爽快だった。

スカーレット・ヨハンソンにウットリ、ポッチャリ君にホッコリ。そしてサム・ロックウェルに泣かされた。ラストシーンは最高。
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