えむえすぷらす

新聞記者のえむえすぷらすのレビュー・感想・評価

新聞記者(2019年製作の映画)
5.0
 WebDICEに監督インタビュー記事が出てますが、政治に興味もなかったけど製作の方が口説き落としたらしい。制作の人は政治情勢に対する危惧があるけどそういう自分のような視点の人物ではない人の方がいいという理由で藤井道人監督の起用にこだわりそれが本作の成功につながった。

 現実の話はテレビ画面の向こう側に限定し、映画の中の世界では「ペンタゴン・ペーパーズ」的な記者と内閣府、内閣情報調査室(とされるが世論工作・隠蔽担当にしか見えない)の攻防戦が描かれる。
 シム・ウンギョンさんと松坂桃李さんの起用が光る。シム・ウンギョンさんは日本人の父、韓国人の母を持ちアメリカ育ちという設定で英語の方が流暢という設定。だから台詞は少しぎこちないんですが表情演技が圧倒的。
 松坂桃李さんは「孤狼の血」と本作は双璧の演技でよかった。彼じゃないとシム・ウンギョンさんとバランスが取れない。

 ペンタゴン文書事件、ウォーターゲート事件は他紙も独自報道したり、地方紙はワシントンポスト記事を転載するようになり世論を動かした。
 他紙が報じない事件は孤立無援。それで事態を動かせなかったのが「記者たち」で取り上げられたイラクの大量破壊兵器の証拠不存在の問題だった。報道した記者はいた。でも他が後追い報道するところにつながらなかった。
 本作は他紙が追って報じ出したという意味を分かっている描写が入っている。フィクション、エンタメ映画として思いっきり振り切った事態が暴かれていくが、それでもどこかリアルさを一片残している。最後がああいう終わり方をしたのはこの作品が作られる背景となった事態が何一つ解決されてない事を踏まえてのものになっている。ここで現実はつながっている。

 藤井道人監督がいたからこそ生まれた映画でしょう。

追記:
・現実の改変が幼稚という風な批判も見かけるんですが、そもそも現実なぞってもエンタメにはならない(というか現在何一つ決着してない問題という遺憾な状況にある)。
・**兵器はどうなんだ(といっても**兵器転用可能な研究施設としているだけで、**兵器製造施設だとは言ってない)というのは核兵器にしたらもっと成り立たなくなるところまで考えての事のはず。**兵器だと**テロ対策で研究はできるという所で現実実現可能な選択肢でもあります。あくまで転用可能というのがミソ(**はコメント欄にネタバレ指定で入れておきます)。
・内閣情報調査室は実在だけど実際にこのような活動をしているかは不明。そして本作の上ではその点がリアルかどうかはさほど意味を持たない。政権においてメディアコントロールをしているのではないかという事の可能性を提示できれば充分であり、それは充分達成されている。

 このような事があった上でこの物語がどう終わるか観客に任せる仕掛けになっている。考え抜かれたプロットですね。