Oto

天気の子のOtoのレビュー・感想・評価

天気の子(2019年製作の映画)
3.7
普通は「恥ずかしい」「気持ち悪い」と言われるような、(悪く言えば)幼稚な世界観を平気で描いて芸術に昇華できるのは新海誠の強みだと思う。その照れ臭さの壁を乗り越えた者のみが作品を生み出して受け入れられるわけだし、世界の綺麗な面のみを極端に切り取って見せる作家というのもかなり稀有。

マス向けに作家性が希釈された『君の名は』でさえも多く挙がった「世界が2人を中心に都合よく展開しすぎ」という批判に対するアンサーとして、穂高に「世界か、自分か」という選択をさせて一度は否定した上で、もう一度やっぱり「自分中心のセカイを優先する」というテーマを再構築したのはブレないな〜と感じて良かった。
社会のためとか結局は建前でしかなくて自分がどうしたいかでしかないというのは現実でよく感じるし、その対極として自分自身を押し殺して大人になってしまった須賀を置くことで説得力が増していた。
喘息の意味とか指輪の意味に関する考察を読むのおすすめ。
https://twitter.com/mpfv5/status/1157689550057029637?s=21

若さゆえの「衝動」が持つ美しさはライ麦畑が象徴するように昔から描かれ続けてきたけど、なつみのアシストや須賀との対比もあって感動できるので不思議。年齢や呼び名がもたらす、逆転の強がり的なトリックも良かったのだと思う。
「形式的」と感じるような展開には良さも悪さもあって、説明的なナレーションとか、余りにもわざとらしいキャラ設定とかは気になるものの、終盤の須賀の涙とかピストルのシーンには感動して「様式美」だなーと思った。文字通りの「チェーホフの銃」。

アニメにしかできないような雨を用いた描写や世界線の破壊も効果的。天候という普遍的でありつつも信仰を扱って日本的な独自性を保つ設定も上手で、リアルタイムで観ることにも意味を持たせる。
https://cinemarche.net/anime/tenkinoko-shikamimi/#i-4
ひなを犠牲にすることで社会全体の問題をなかったことにしてしまうようなテーマは非常にリアルで、吉本にとっての宮迫さん、NGTにとっての山口さんとか、日本組織の大きな問題点だと思うし、タイムリーで良い。
『ターミネーター』や『E.T.』の手法だけど、信じがたいフィクション性(天気の子の存在)を観客に先に提示した上で、それが一般人に信じてもらえないもどかしさを共有するというのもかなり有効なシナリオだなー。

あと『君の名は』の力だろうけど、実際の製品や曲や都市を使えるタイアップの強さは大きい。マックもAKBもバニラも星野源も、こういうディテールは予算のない映画では出来ないので羨ましい。

ただ!笑いのセンスのなさがとにかく気になる。なぎくんが女の子2人呼んで逃げるシーンくらいにぶっ飛んでれば面白いんだけど、小ネタやギャグが総じてさむくて辛い。それによってたまに現実に引き戻されてしまうし、最後の穂高が告白されると思ったら…とかせっかく盛り上げた流れを壊してる。
「どこ見てんのよ!」のように伏線回収に使うとかしないと完全に浮いてるし、実力派の芸人さんに監修してほしい。

声優は、小栗旬が非常に良い。『響』でもやさぐれた役がはまっていたけど、役者として良い歳の取り方をしているなー。
本田翼もエロくて軽やかで良い。長澤まさみも前作で良かったけど、監督自身に年上のお姉さんコンプみたいなものがあるのかも。
音楽はRAD以上に三浦透子が印象的だった。

グランドシネマサンシャイン池袋のIMAX GTテクノロジー初体験だったけど、 H列でも近いくらいに画面がでかい。前座の『Transphere』は、"powers of ten"を思い出して、トランジション演出の参考になった。
(今年50本目)

*解説を聞いて:「世界は元々狂ってる」という自己や若者の肯定は認めた上で、「実際に穂高が罪を犯してしまっていることで、社会との対立がぶれていて、ひなの件ではなくて拳銃や家出が責められており、結果的に社会が穂高に対して非常に甘く描かれすぎている」という批判は鋭い。
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