るる

天気の子のるるのネタバレレビュー・内容・結末

天気の子(2019年製作の映画)
3.0

このレビューはネタバレを含みます

not for me なことを理解したうえで見に行ったんだけど、

自分が中学生のころにこの作品に出会ってたらどう思っただろう、と考えてみてるんだけど、全然わからない、どの時期に、どの作品と出会う前に見ていたら、刺さったんだろう。そんな時期はなかったかもしれない。己のラノベ遍歴を思い返してみると、古典であるところのブギーポップをかなり背伸びして読み始めたことが入り口だったからな、ちょっと世代ではないというか…ヤングアダルト的なものを忌避してたフシもあるしな。

日本アニメ映画の文脈で見たときに、細田守作品と表裏というか、ほとんど区別がつかなくて、ちょっと困惑した、途中で、ああこれはヤングアダルト向けポニョなのかな、女の子のために頑張る男の子を奨励するなにか、と思ったりもして。好きとも嫌いとも言い切れないシーンがずーっと続く、なかなかない感覚だった、あれが"無"か。

まず冒頭のポエムがいけすかなくて。わりとずっと、なんだこれは…と思っていて、

これはラノベなのかなあ、ベタな演出がされたギャグシーンは地上波アニメっぽい、いややっぱりエロゲのノリなんだろうなあ、やったことないけど…苦手なんだよなあ、ゼロ年代&イチゼロ年代、セカイ系から萌えに向かった流れ…とかなんとか思ってたんだけど、

ああそっか、MADか、と気付いて、ひとつ、なにかが腑に落ちた、一時期ハマったニコニコ動画の、あの、曲のいいところでセリフが入る、あのカタルシス、そこに気持ち良さを見出してしまったので、なんか、ああー、やっぱり私もこのへんの世代なのかな、と思うなどした。ちょっとくやしい。

しかし、正直、あの精神性…にはまったくノレない。幼すぎるだろうと思う。幼すぎる主人公に、薄っぺらいウンチクを垂れる大人、最もらしい"知識"を語る年寄り、衒学趣味なラノベから、セカイ系、萌え系に移行していったころの、ラノベのきらいなところ、こういう"軽い"漫画や小説は徹底的に避けてきたんだよな…と思って、うっすらと、ずーっと腹立ってたんだけど、

みんなのためにひとりが犠牲になってもいい、と漏らしたダメな大人な男との対決を、山場に持ってきたのは良かったように思う。あまりに作為的だったけど。父殺しではないけれど、大人の男にひとりで真っ向から立ち向かう男の子の描写、宮崎駿ができなかった仕事だと思う。

父親不在の物語のなか、父親をなんとかやろうとしてる男を描いたあたり、回帰、という気もするけど、しかし、いまこの世は本当に父親不在の世の中なのか?本当に?権力者の存在をぼかすなよ、と思ってるので、うーん。

それにしても。小栗旬が声やってる彼のビジュアルが、サマーウォーズの人気キャラ、侘助にしか見えなくて、夏美さんもサマーウォーズとか、その他アニメの類型的な姉貴キャラにしか見えなくて、人気の要素をただ、ぶち込んでるように感じて、うわーって。

スポンサーとのタイアップだらけの、ザ・資本主義みたいなアニメだな、ある意味、器用だな、残った作家性がこういうとこならやっぱりいけすかねえな、って、なんだかもうずっと気持ちが凪いでいた。

君の名は。キャストのゲスト出演もあざとすぎて、満を辞しての登場といった感じの演出に辟易。大ヒット作を生み出してなお、ファン向けのスタイルを崩さないところが作家としてのいいところなんだろうけど……好みじゃなかったなあ。

風俗求人バニラの車をわざわざアニメで描写するえぐさ、今敏とか、雑多な街並みを描く画風ならともかく、あのお綺麗な画風に割り込む東京の現在、えぐみが凄かった。

この東京には憧れねえな、と思ってたんだけど、無策で上京してきて、よくわかんねえ怪しげな仕事について、それでなんとかなる、そこが東京の良さなのかなあ、という気もした、でも、男の子だけだよな、女の子はあれ、救われたと言えるんだろうか。一連の描写全て、えぐみが凄い。

ラブホテルにて無策に結婚しようと言った穂高くん、あ、こういう男の子、いるな、いるんだろうな、と生々しさを感じてしまったし、女の子もイタイ、年齢偽って穂高くんに世話を焼いて自尊心を満たすあの感じ、自分が大人だと思っている女の子、大人に付け入れられやすい女の子、ああいう女の子いるな、と思ってしまって、おおかみこどもの雨と雪よりも、学のない、世間知らずな男女の恋物語、という連想をしてしまって、なんだかもうゾワゾワした。

穂高の家庭環境を描かなかったことにも、ちょっとモヤモヤ。感情移入しやすいように主人公の属性を削ったのかな、と思うんだけど、子供を主人公にして描いた物語としてどうなんだろう、児童文学の信奉者なので据わりが悪い。島に戻った彼はどうやってサバイブしたのか。そういう部分をしっかり描くという意味では、細田守のほうが好みなんだよな。。

そうそう、個人的に、児童の福祉に携わるおばさんたちを信用できないひとたちとして描いたうえでフォローがなかったことは、ちょっと許せないなと思った。その背景にあるモノを思って尚更、受け入れがたい。社会の底を支える仕事、その従事者への敬意がなさすぎると感じた。福祉が身近かどうか、都会と地方都市の違いなのかもしれないけど、大人として四苦八苦しながら社会正義を守ろうとしている彼女たちよりも、ダメなところもある子供っぽい俺たちのほうが子供と寄り添えるし救いになれるという傲慢な視点に感じたので、何を言われても説得力がねえよと感じた。

現実の事件を通して、露頭に迷った児童を保護と称して囲い込んで共同生活を送ることがなぜ誘拐になるのかわからないという大人がたくさんいる、インセル・オタク層と重なる、ということを目の当たりにしたので、尚更、アニメでこういう価値観を描かれてもなと。信頼できない福祉事業を告発したいならもっと真面目にやってほしい。なんだかな。。

楽曲単体で気に入って事前に聞き込んでいたグランドエスケープがかかったときに、あっ、そうだ、この曲を聴きにきたんだった、とギアを切り替えたんだけど、聴き込みすぎていたせいか、夢想していたカタルシスを超えなかったかな…予告編が良すぎた。

君のためならこんな世界は滅びてしまってもいい、というエゴ炸裂の愛の形は好きなので、まあ、いいんじゃないかな。としか。感動も何もなかった。なんなら、もっとシッカリぶっ壊してほしかった。困る大人たち=社会の様子をもっと描いて溜飲を下げてほしかった。でも、いわゆるセカイ系にそんなこと望めないんだろうし、凪。

豪雨被害のニュースが続く昨今、あの水没した街の光景についてはマヒしていたかも。アニメにおける壊滅した東京のイメージなら何度か見てきたし、衝撃も薄くて。

災害が日常になってしまう人々の暮らしについては、まあそうだろうな、3.11以降、ずっと目の当たりにしてきたしな、という諦観が。

監督のインタビュー、海外では環境問題に絡めて質問されるが日本ではない、というコメントを読んで、批評性が失われている、どこまでもマヒしている、と感じた。ただもう、知ったことか、という気分でもある。個人的には、男たちによって巫女にされそうになる女を救う、レズビアンの女の話として、百合アニメとして見たかった。それくらいやってくれなきゃ、日本アニメの文脈で見れば、凡庸だと感じる。申し訳ないけれど。
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