ダーデン二郎

黒い司法 0%からの奇跡のダーデン二郎のレビュー・感想・評価

黒い司法 0%からの奇跡(2019年製作の映画)
4.7

監督: デスティン・ダニエル・クレットン
脚本: デスティン・ダニエル・クレットン,アンドリュー・ラナム
原作:ブライアン・スティーブソン
出演者:マイケル・B・ジョーダン,ジェイミー・フォックス,ブリー・ラーソン,ロブ・モーガン

〈あらすじ〉

ブライアン・スティーブンソン(英語版)はハーバード大学のロースクールを卒業し、弁護士資格を取得した。好待遇のオファーが複数あったにも拘わらず、ブライアンは使命感からアラバマ州で人権運動に携わることにした。同州で受刑者の人権擁護活動に励むエバ・アンスリーの協力もあって、彼は小さな事務所を設立することができた。

1988年、ブライアンの元にとんでもないニュースが飛び込んできた。ウォルター・マクミリアン(英語版)という黒人男性が白人女性を殺した容疑で死刑判決を受けたのだが、彼が犯人であることを示す証拠は一つとして存在しなかった。それにも拘わらず、検察側は誘導尋問などを駆使してウォルターを犯人に仕立て上げたのである。しかも、州の司法当局は杜撰な裁判が行われたことに対して全く関心がなかった。憤慨したブライアンはウォルターの無実を必ずや証明すると心に誓い、その弁護を買って出た。当初、ウォルターは「大学出のインテリ先生に差別の何が分かるというのか」などと頑なな態度を取るばかりであったが、ブライアンの奮闘ぶりを眺めているうちに、彼に心を開くようになった。

こうして、ブライアンとウォルター、エバの3人は司法制度の不備及び黒人への差別意識という難敵と闘っていくのだった。

〈感想〉
心に響く熱い映画でした。
説明セリフと演説大会が多いのが気になるけど…
クリード、マーベルシリーズの大ファンなので今回のキャストのマイケル・B・ジョーダン, ブリー・ラーソンが出ているだけで個人的に5億点でした。😢😢😢

〈社会背景(パンフ等から記載)〉
今作は1980年代後半に起こった事件を基に作られている。
2015年6月、聖書勉強会の最中に教会内で乱射事件が発生し、牧師を含む黒人9人が殺害された。事件を起こした白人の男は『人種間の戦争を始めたかった』と供述した。
2017年にバージニア州シャーロッツビルで白人至上主義者が反対派の集団に車を突入させ、1人を殺害し、多数にけがを負わせた事件がある。
懲役刑に服している者と執行猶予期間中にある者の総数が650万である。受刑者の内訳を詳しく見ると、アメリカの人口総数に占める黒人の比率が13%であるのに対し、受刑者の中での比率は40%に達する。黒人が身体を拘束される刑事罰に処される確率は白人の5倍だ。
以上のことから今でもなお彼等に対する差別や暴力がなくなっていない事が分かる。

〈総論〉
冒頭の平和な日常から理不尽極まりない状況に追い込まれるウォルターさんのシーンが非常に恐ろしい。黒人差別を扱う映画での夜中に運転している時にパトカーに止められるシーンがあると大抵酷い目に合う。ブライアンが人権派弁護士になるきっかけを描くシークエンスも見事だった。死刑が年内に行われない報告だけで喜びを感じられる状況が恐ろしい。
法治国家でありながら裁判が行われずに人種による決めつけで有罪が決まり最悪の場合死刑になってしまうのは非常に恐ろしい事だ。今作の死刑執行シーンは、今まで見た映画の中でも類を見ないほど恐ろしく悲しかった。死刑制度についても考えさせられた。異常な状況を変えるべく立ち向かうEJIは勇敢であった。嫌がらせや脅迫に負けずに信念と法で理不尽な現実に立ち向かい勝利するシーンで涙が止まらなかった。
本作で何回も登場するアラバマ州最高裁判所が位置するのは、キング牧師の運動の拠点“デクスター・アヴェニュー・バプルティスト教会"の西隣だ。そして南部奴隷制権力とKKKの象徴である州議会議事堂から西に歩いて5分のところに位置する。正義がもたらされるはずの場である裁判所とのあいだに今も建っている。このような現状に複雑な気持ちになる。正義と差別が混在してしまっているような感覚になる。
正しい事をするのは大変だがやらなきゃいけないし、やるべきだと今作は背中を押してくれる。
“Do the right thing!"