岡田拓朗

AI崩壊の岡田拓朗のレビュー・感想・評価

AI崩壊(2020年製作の映画)
4.0
AI崩壊

その日、AIが命の選別を始めた。

2030年の日本を舞台に、突如として暴走を始めたAIとそれを阻止しようと奔走する天才科学者の攻防を描いた作品。

なかなかにおもしろかった!
映画ならではのスケールの大きさから未来に起こることとしての現実性はまだイメージしづらいものの、そこから描かれる人間的な部分を通して見え隠れすることや訴えられていることから、この映画をリアルに転化して考えさせられるものがある。

映画というエンターテイメントとしてのおもしろさを追求した裏に、ちゃんとした問題提起とそこに対しての制作側の意図が入り込んできていて見応えも結構あった。

犯人探しのサスペンス要素は物足りなく序盤で犯人の予測はある程度ついてくるが、本作の本筋はそこではないと思う。
入江監督だと、大衆向け一作目に映画『22年目の告白』を監督として手がけていて、こちらはサスペンス要素が際立っていたので、それ目的で行くと拍子抜けしてしまうかなと。

SF要素と展開のスピード感によりパニック要素が助長されていく作りこそが、本作のエンタメとしてのおもしろみの軸になっていて、関係者の多さから目まぐるしく色んな情報が錯綜する展開と休む間もなく被疑者が追いかけられ続けるハラドキ感で、否応なくスクリーンに釘づけになる。

そこに少しながら伏線回収も盛り込まれていて、『ゴールデンスランバー』が好きな方は(自分が観たわけではないが)、設定とかもわりと似ててハマるんじゃないかなと思った。

中盤以降は緊迫感がずっと続きながら、あり得なさそうであり得るかもしれない未来の良し悪し含めた可能性を見せてくれる。
SFならではの近未来的演出も、満足度が高いレベルでしっかりとあった。

何かに依存しすぎることは、何かに支配される可能性があること、そしてそれは強者から弱者に向けて容赦なく降り注がれる可能性があることを示唆しているように感じる。

国を破綻させないための合理的な選択とあくまで命は平等なものとして人間の尊厳を守り続ける選択。
この選択は近い将来もしかすると本当に迫られることになるかもしれない。

少なくとも国が人を支える限界が来たら、唐突にこれからは自己責任で自分のことは自分でという時代が来る可能性は往々にしてあるだろう。

便利で世の全てに侵食されていくもの(特に本作のようなAIや最新技術など)こそ、それを扱う人によって良くも悪くも働いてしまうから、細心の注意が必要である。
AIでやるべきことと人のやるべきことを、しっかりと基準を設けてわけないと見境がなくなり、とんでもないことになり得る可能性もある。

国ありきの人になるのか、人ありきの国になるのか。
あくまでAIや最新技術は手段でしかなく、それを使う人の心が試される。
性善説で回る世の中であれば、そもそも監視も管理も必要以上にはいらないはず。

移住していた桐生浩介の国の様子と戻ってきた日本での様子の比較、AIを軸に捜査に踏み切る警察とあくまで今まで通りの培ってきたやり方でやっていく警察のぶつかり合い(対比)によって、二項対立で鑑賞者が考えやすい作りになっているのも意図してかはわからないが、わかりやすく色々と考えることができてよかった。

実際にそんな簡単に二項対立で考えられない問題かもしれないが、この映画ではあえてそれで投げかけることで、行き過ぎた思想そのものに対しての警鐘を鳴らしてるようにも感じる。
そういう意味では個人的にマイナンバー制度なんかも、今のネットであらゆるものが完結していき、情報が一元管理できる可能性のある形に流れていく社会もわりと怖いなーと思ったり。

死刑制度にすら是非が問われる中で、命がAIによって選別されるなんてとは思うかもしれないが、無思考すぎると知らぬ間に何か裏で進められてたってことなんかは全然ありそうやなーと。

いずれにせよメリットだけでなくデメリットを把握した上で、リスクテイキングして色んなものを享受しなければなと改めて思った。
無思考で流されてるだけではよくない。

そしてやはり選択できる余地をいかに自分の中に持っておくか、知識や能力、経験含めて改めて重要だなーと感じさせられた映画だった。

Filmarksとか見てるとそこまで点数上がってきてないみたいですが、この題材でオリジナルでここまでできるのはかなり凄いんじゃないかなと個人的には思った。

P.S.
キャストが物凄く豪華なのは言うまでもないが、その中でも特によかったのが岩田剛典だと個人的には思う。
今まで見てきた演技の中であのキャラが一番ハマってたんじゃないかなと。
大沢たかおは久しぶりに演技を観ることができてそれだけでもよかったし、さすがの演技力だなと思ったけど、走り方だけはどうしても気になってしまった。笑
あれだけ逃げ切れてたのはもう奇跡としか言いようがない。
岡田拓朗

岡田拓朗