Cisaraghi

ヘルプ 〜心がつなぐストーリー〜のCisaraghiのネタバレレビュー・内容・結末

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このレビューはネタバレを含みます

『風と共に去りぬ』から80年近く経ち、やっとマミーの側から支配者側を観察し、両者の関係がどのようなものだったかを語る映画が作られる時代になったかと感慨深い、と思っていたら、この話は実話に基づいたものではなく、原作は白人女性が書いた完全なフィクションで、モデルはいるらしいが、エイビリーンやミニーのような黒人女性との共同作業の下で書かれたものではないという。正直ガッカリした。

しかし、メイキング映像を見て、この映画は人種差別を告発するのが主眼ではなくて、原作者と監督が子供時代を過ごした1960年代の故郷ミシシッピへのノスタルジーを描きたかったのではないかと思えてきた。だからかつてのミシシッピがこんなに美しく再現されているのだと。
 二人ともミシシッピ州ジャクソン出身の幼なじみ同士、実際に黒人メイドを母代わりに育った経験を持つ。今の時代から見ればかろうじて奴隷よりはマシくらいにしか思えない白人家庭に仕える黒人メイドだが、二人にとって黒人メイドたちの存在は古きよき時代のかけがえのない一部であり、特に育ててくれたメイドは限り無く家族に近い大事な存在だったのだろう。
 彼らの気持ちの中にあるのは、差別に対する怒りというより、彼女たちに対する同情や贖罪に近いものではないかと想像する。

ここに描き出されている60年代のミシシッピは、黒人を奴隷として扱っていた時代から本質的には変わっていないようなひどい土地柄である一方、その風土は明るくて強い光に満ち、鮮やかな色彩で描かれた印象派の絵画のように瑞々しく美しい。
 一面の綿畑、濃い緑に覆われて建つ南部独特の開放的な邸宅、その時代がかった内装や調度、60年代コスチュームやヘアスタイルも華やかで楽しいし、当時の町の雰囲気もよく醸し出されていて、たいへん見て楽しめる映画だ。それに、メイドさんたちの作るお料理やお菓子がどれも美味しそうなこと!

また、南部の白人上層階級の、大学も卒業しないで結婚するのが勝ち組という、当時の若い専業主婦たちの暮らしぶりや価値観などがよくわかった。彼女たちは今、どうやって暮らしているのだろう。さすがに今、黒人の使用人はいないのだろうか?

瞳の大きなエマストーンはコメディエンヌ向きでは。この作品の彼女は好感度高かった。
 あと、「オデッセイ」の船長が意表を突いた役で登場!ホワイトトラッシュのいい女っぷりが最高!おそらくマリリン・モンローを意識した役作りだろう。役どころとしてもミニーをナイスアシストするいい役だ。映画にはないけれども、小説の中ではケンカが強かったという設定で、彼女の腕っぷしの強さを発揮する場面がある。
 (この役を本当にマリリンモンローが演じたとしたら、この映画の相当な部分をかっさらっていっただろうと思うと、あらためてマリリンモンローの威力を感じる。)

しかし、何と言っても心底嫌なオンナ、ヒリー。勇気をもってこの役を演じたブライス・ダラス・ハワードさんが心配だ…。

ヴァィオラさんとオクタヴィアさんの二人の名優に関して言えば、結局は白人に都合のいい黒人を演じさせられた感が拭えず、もったいないなーと思ってしまう。
 それでも、この映画でマミーの声が聞けた意義は少なからずあったのかもしれない。

原作はユーモアたっぷりの語り口で、翻訳の生硬さやわざとらしさもなく、とても読みやすかった。

(追記)
その後、ヴァイオラさんがこの映画に出演したことを後悔しているという情報が伝わってきた。撮影や一緒に仕事した人々は素晴らしかったけれど、人種差別が色濃く残った時代の黒人メイドたちの思いが伝わる作品にはなっていなかった、と。やはり…。マミーの本当の声は聞けていないようだ。
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