犬たろ

ゴーストバスターズ/アフターライフの犬たろのネタバレレビュー・内容・結末

5.0

このレビューはネタバレを含みます

この物語の“原点”が生まれたのは、今から38年前の1984年。これは何の巡り合わせか、いや運命と言ってもいいでしょう。僕が生まれた年も、同じく1984年なのです。

僕の両親は共働きで、平日は家にいない時間が多く、休みの日に親といっしょに足を運んだレンタルビデオ屋で借りてきた映画を、週末にみんなで見るのが楽しみでした。

好んだ映画を何度も繰り返しレンタルしていましたが、そのひとつが『ゴーストバスターズ』でした。

フィービー(マッケンナ・グレイス)やトレヴァー(フィン・ウルフハード)が、この物語の“原点”を、もっと言えばあなた方の偉大なるおじいちゃんの物語を誰からも教わっていないことに、一抹の寂しさを覚えてしょうがないのです。

それは僕のヒーローで、レジェンドで、神たちの物語だから───。



昔々、ニューヨークのとある大学の超常現象研究室に、三名の博士が務めていました。

レイモンド・スタンツ博士(ダン・エイクロイド)は、超常現象の虫のような人で、呆気にとられるほど能天気を地で行く楽観主義者ですが、なかなか芽が出ずにくすぶりながらも、それはそれでどこか楽しんでいるような愉快な人です。

ピーター・ベンクマン博士(ビル・マーレイ)は、心理学の博士号を持っていて、人の心理を読み解く能力に長けているだけではなく、堅気の真逆をいくような口八丁、悪く言えばペテン師のようなキナ臭さとユーモアあふれる痛快な人です。

そして、あなた方のおじいちゃん、イゴン・スペングラー博士(ハロルド・レイミス)は、どこか近寄りがたい堅物のような雰囲気を漂わせながらも、いざ話に耳を傾けてみれば「読書は毒だよ」と分かりにくいジョークを言ってみたり、トゥインキーやクランチバーなどお菓子が大好物の甘党男子で、趣味が「胞子とカビとキノコ採取」という真面目で大人しい人柄がよく表れている素敵な人です。

しかし、なかなか結果が伴わない彼らの活動に業を煮やした大学の学部長から、まさに寝耳に水の如く突然クビの宣告を受けて、大学から追放されてしまいました。

毎日心躍らせて通っていたであろう勤め先を失った三名の博士は、さぞかし路頭に迷うのかと思いきや、なんとそれを機にベンクマン博士が抜群の機転を利かせ、スタンツ博士の実家を担保にかけて銀行から融資を受け(ひどい!笑)、超常現象をビジネスとする企業を興します。

それが『ゴーストバスターズ』です。

「まだテストさえ終わってない」と語る小型原発ユニットのプロトンパックを背負いながら、ゴーストを年がら年中、昼夜問わず追いかけ回し、所構わず破壊を繰り広げながらも、誰も手をつけられないゴーストを捕獲することに身を粉にして躍起になっていれば、いつしか飛ぶ鳥を落とす勢いで世間にその名を轟かせていきました───。



フィービー、あなたを見ていると、あなたのおじいちゃんであるイゴン・スペングラー博士と本当によく似ているように思います。

黒髪の天然パーマに丸メガネであることは言わずもがな、おじいちゃんに負けず劣らず頭脳明晰で、その賢さゆえに愚鈍な連中とは関わり合いたくないつもりなのかどうかは知り得ないところですが、なかなか友達ができないように見えます。

田舎町に転校して真っ先に声をかけてくれたクラスメイト、ポッドキャスト(ローガン・キム)も風変わりで能天気な性格の持ち主なようで、気質こそ違えど二人とも趣味趣向が、もっと言えば互いの波長が合うあまり、初めて家族以外で他者に対する居心地の良さを覚えたのではないでしょうか。

フィービーとポッドキャストの初めから馬が合う仲睦まじい姿を見ていると、きっとスペングラー博士とスタンツ博士もあなた方と同じように、出会って間もなく幼馴染みたく打ち解けていったのであろうことは想像に容易い。

まだ幼いあなた方の向こう側に、これまた若い頃のスペングラー博士とスタンツ博士が見えるかのようで、僕はひとり勝手に相好を崩しながら見守っていました。

あなたがスペングラー博士と本当によく似ていると感じたところは、他にもあります。

兄トレヴァーがECTO-1のハンドルを握って転がし、あなたがプロトンパックを握りしめて銃座につき、盛大にレーザーを放ちながら町中を破壊しつつゴーストを追いかけ回したあと、警察署に勾留されたときのことです。

警察官らにおじいちゃんのことを揶揄され、頭に血が上ったあなたは、瞬時にプロトンパックを手に取り、リロードして轟音を鳴らして、銃口を警察官に向けながら激しく睨みつけていました。

咄嗟の出来事に慌てた母キャリー(キャリー・クーン)が、制止するよう何とかして宥めていましたが、思い返せばスペングラー博士も、あなたと同じような勇ましい行動を取っていたことにハッとしたのです───。



ニューヨークにあるゴーストバスターズ本部に押しかけてきた環境保護局の部長さんが、仕事柄なのかこれまた懐疑的な気質の持ち主で、「ゴースト保管庫の電源を今すぐ切れ」と言って聞きませんでした。

スペングラー博士が再三制止するよう警告しているにもかかわらず、無理やり電源を落とせば、保管庫は瞬く間に爆発を起こして、捕獲していたゴーストたちは街中に解き放たれてしまったのです。

そのとき、環境保護局の部長さんは、ゴーストバスターズに向けてこう言いました。

「こいつらが爆発事故の原因をつくった犯人だ」

すると、頭に血が上ったスペングラー博士は、瞬時に胸ぐらを掴む勢いで飛びかかり、咄嗟の出来事に慌てたスタンツ博士とベンクマン博士が、怒り狂う彼を何とかして宥めるように押さえつけていました。

普段は沈着冷静なスペングラー博士ですが、実は人知れず、人一倍漢気あふれる正義感の塊だったのが垣間見えた瞬間でした───。



フィービー、あなたを見ているとスペングラー博士の姿までが見えてくるようで、とても嬉しいばかりです。

ソファーの下に落ちていたPKEメーターを見つけると、アンテナが動くたびに「フィービー、こっちだ。いや、そっちじゃない。そうだ。そのまま、そのまま。よし、いいぞ」とスペングラー博士の声が聴こえてくるかのように、あなたは導かれていましたね。

おじいちゃんのことを何も知らないにもかかわらず、だからこそ知りたくてしょうがない、その飽くなき好奇心が、ゴーストに立ち向かう恐怖心を知らず知らずのうちに掻き消していたんだと思います。

あなたはいずれ、ドローンのゴーストトラップや、宙に浮くECTO-1まで創り上げるのではないでしょうか。

東の果ての国からゴーストバスターズにささやかながら愛を注ぐ僕は、取るに足らない星屑のような人間ですが、あなたのこれからの成長を、星になったスペングラー博士とともに見守れれば幸いです───。



昔々、スペングラー博士は、初めて幽霊と遭遇したことで興奮するスタンツ博士とベンクマン博士に向けて、穏やかに淡々とこう告げました。

「あの接触は決して無駄じゃない。イオン測定の結果が出たんだけど、とても安定している。これなら捕まえて閉じ込めておけるよ」

すると、ベンクマン博士は怪訝そうな面持ちで、異議を唱えました。

「イゴン、本気でオバケを捕まえる気か?」

その言葉にスペングラー博士は腹を立てたのか、間髪を容れずに鋭い眼光で答えます。

「僕はいつでも本気だ」

機嫌を損ねたように見えたスペングラー博士に、ベンクマン博士は歩み寄りました。

「お前を見直した。これはお詫びのお菓子」と言ってクランチバーを差し出したのです。

その包み紙はスペングラー博士にとって宝物のひとつとして、ユニフォームとともに地下室で保管されていましたね。

知らない人からすれば、ただのゴミにしか見えない物でしょうけど、それを大切に残しておく仲間思いなスペングラー博士の血を引くフィービーの今後から目を離せないのは、言うまでもありません。

何か奇妙なことが僕の近所で起こったら、是非とも呼ばせてください。

僕のヒーローで、レジェンドで、神たちの魂を引き継いだ、フィービー、ポッドキャスト、トレヴァー、ラッキーで結成した『ゴーストバスターズ』を。

p.s.

物語の“原点”にも名前だけは登場するキーパーソン、破壊の神ゴーザ崇拝者であるイヴォ・シャンドアを今作で演じたのが、なんとJ.K.シモンズ。

与えられた動きないし台詞は、呆気に取られるほど極めて僅かでありながら、喩えそれだけだとしても手を抜かない箔のあるキャスティングを成就させたのは、お見事だと言わずにはいられない。

さらに、破壊の神ゴーザを演じたオリヴィア・ワイルドの関連作を調べていくうちに、彼女の次回監督作で主演するのは、今作でフィービー役を演じたマッケンナ・グレイスと知る。

歓びの導き、歓喜のご縁を感じる。
犬たろ

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