ひでやん

フォードvsフェラーリのひでやんのレビュー・感想・評価

フォードvsフェラーリ(2019年製作の映画)
4.2
加速する高揚感。

ル・マンで開催される24時間耐久レース。そのレースをスティーヴ・マックィーン主演で撮った映画は、本物を追求するあまりレース以外のストーリー性は削ぎ落とされ、ドキュメンタリー・タッチの仕上がりになっていた。

今作はストーリー性とレースシーンのバランスが良い。フェラーリを買収しようとしたフォード社が、フェラーリからボロクソ言われて交渉決裂。ちくしょう覚えてやがれ。ル・マンで勝ってギャフンと言わせてやるという始まりで、レーシングカーの開発を宣言。絶対王者フェラーリに挑む2人の男が熱い。

テストドライブを繰り返し、問題点を指摘しながら改良するGT40。30キロ以上も減量したというクリスチャン・ベールの役作りは半端ない。職人気質の偏屈者を見事に演じた彼は、本当に扱いづらそうな奴に見えた。マット・デイモンとのバディは相性抜群で、取っ組み合いになる場面は喧嘩なのに微笑ましい光景だった。

いつの間にか『フォードvsシェルビー』、『商業主義の企業vs偏屈者』という戦いとなり、ハリウッド版『下町ロケット』なんて言われるのも納得である。シェルビーが落とした悪戯なナットと、マイルズが投げた怒りのレンチ。シェルビーが副社長を閉じ込めた開けられないドアと、マイルズの閉められないドア。圧力や妨害工作と戦う2人が胸を熱くさせる。

『フォードvsフェラーリ』に出来すぎた結末を期待してしまった。ほぼ同時にゴールし、VAR判定の結果「マイルズの1ミリ」で勝利…漫画のような期待だった。とにかくレースが熱い。映画を観ている部屋は車内となり、座椅子はドライバーシートと化す体感。助手席に乗せられたフォード社長のビビリは最高だったが、自分もそうなるに違いない。ションベンちびるだろうな…いやウン○漏らすな。

走行妨害や接触、ほんの少しのミスで大破し炎上する恐怖。ペダルを踏み込みレッドゾーンへ向かうタコメーター、鳴り響くエンジン音、一瞬のタイミングでコーナーギリギリをぶっちぎる車体。アスファルトの上を唸り、叫び、吼える姿は生き物のようで熱い。そして視界に捉え続けている赤の流線型、その絶対王者が消えた瞬間、優越感と孤独を感じさせるマイルズの表情がたまらなく良かった。
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