和桜

ゴーストランドの惨劇の和桜のレビュー・感想・評価

ゴーストランドの惨劇(2018年製作の映画)
3.7
六年ぶりのパスカル・ロジェ監督作。
暴力や恐怖によって痛烈な現実を訴えかける手法は健在。社会風刺や哲学的だった過去作に比べ、ホラーや物語愛に満ちた今作は今までの中で最もヒューマンドラマ寄りかも知れない。監督自身が主人公に自分を重ねてたと言ってるように、ラストの展開は今後に向けた新たな決意や覚悟のようにも見える。

ただこの手の監督の宿命だけど、初期作で感じた驚きや斬新さは監督の作風として定着してしまった。展開やトリックに既視感は漂ってる。それを補うように散りばめられた古典ホラーな仕掛けやオマージュは見事なんだけど、それが監督の作風には微妙にミスマッチで怖さとしても微妙。
結果として今までのパスカル・ロジェ作品を期待した人には、肩透かしに感じてしまうかも。
この監督がカルト的な支持と批判を受けたのは、演出や脚本の巧さに加えて謎に対する動機の部分が大きかったはずで、今回は冒頭のラグクラフトの写真からして少し狙いすぎというかズレてる気がする。
監督自身もここ数年のゴタゴタを語りながら、冗談交じりに家賃が欲しくて三カ月で書いた脚本と言ってて、そこら辺の事情もあるのかな。次は前作みたいに全身全霊で挑んだと言ってくれるものだといいな。
個人的には『トールマン』で感じた世界が覆る感覚や思想が忘れられなくて、待ち望んでしまう。

愚痴愚痴書いたけど、これは空白期間の長さから期待値が上がりすぎたからで、作品としては才能しか感じない。
ホラーやミステリーのお決まりを破ってきた監督が、その部分を忠実に守って簡単に取り入れてるのは、これまで支持や批判してきた層を嘲ってるようにも見える。ハネケ監督を徹底的に批判してた妥協のなさや、自分の作品への絶対の自信を感じるビックマウスは変わってないし、今後も新作が見れると分かっただけで大満足。
なんだか段々とシャマランみたいな軌跡を歩み始めててその点も最高。
和桜

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