Koutaro

グレース・オブ・ゴッド 告発の時のKoutaroのレビュー・感想・評価

4.5
実際の事件を題材にその公判が行われるまでの過程を群像劇に近い形で描いており、非常に社会的なメッセージが強い作品。
扱っている題材が題材なだけに、一見ややとっつきにくそうなイメージを抱いていたが、物語のベースとなっているのは個人が強大な組織に立ち向かっていくという比較的オーソドックスな構図の闘争の模様であり、社会性が強い作品の割に観やすい印象。エンターテインメント性は十分にある。

三人の被害者を主人公として順番にスポットライトを当てていく構成が印象的だが、この描き方には良し悪しが分かれるような気もする。
はじめから複数の主人公が存在することを明示するわけではなく、一人目の主人公が決定的な行動を起こした瞬間に二人目の主人公へと話の焦点が切り替わり、同様に、三人目へとスライドしていく。
当然、二人目、三人目の主人公について描かれていく過程でそれまでの主人公も話に関わってくるが、彼らに焦点が戻ってくることは、物語最終盤を除いて、ほぼ無い。
被害者一人ひとりの行動が他者の人生に大きく影響を及ぼしていく過程をうまく描いており、興味深い手法ではあるのだが、そういった描き方をしているという前知識を持たずに観ると、それまでじっくりと掘り下げられていたキャラクターが急にばっさりと切り捨てられたかのようで、呆気にとられてしまう。

更に興味深いのは本作が製作された段階でまだこの事件の公判は行われていなかったという点。
この手の社会派ドラマの多くは実際の公判結果まで描ききることが多いように思えるが、あえてそれを待たずに当時まだ浮き彫りにされたばかりの事件を描いたことに強い意図を感じる。
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