kiguma

イエスタデイのkigumaのレビュー・感想・評価

イエスタデイ(2019年製作の映画)
5.0
-ぼくはビートルズファンが大嫌いだ。だけどこの映画に出てくるすべての人が大好きだ。

ビートルズのファンは面倒くさくて苦手。
・権威主義的で
・マウント好きで
・高慢で
・偏見に満ちて
・了見が狭いから

でも、この映画はそんなこじらせファン達のツンデレでねじ曲がった過剰な愛を驚くほどかわいく描いている。
ジャックもリリーもエド・シーランも様々な友達も皆愛おしい。
頭悪い事しか言えないけど、この映画はとにかくかわいく愛おしい。

予告編から心をわしづかみにされていたけど、この作品の落とし所はとても素晴らしかった。
タイトルも忘れたけど、昔、フェルメール専門の美術学芸員の推理小説を読んだ。その中の一節。

「あなたはお金を出してこのフェルメールを"所有"する権利を得たのではありません。お金を出して"人類の遺産"を一時的に保護する権利を得たのです」


レナード・バーンスタインがYesterdayを聞いた時に「もしモーツァルトが現代に生きていたら、きっとこんな曲を作っただろう」と語ったらしい。
僕にはBeatlesの独自性は分かっても芸術性はそれほど分からない。
しかし彼らの曲がベートーベンの「歓喜の歌」と同じように、この先も未来永劫歌い続けられる普遍的なポップソングである事は分かる。

僕にとってはThe DoorsやCreamやHendrixの方がはるかに芸術性が高く感じるが、Beatlesの曲が人類の遺産-heritageである事は疑いがない。
「足すものも引くものもない」それ自体で足りている音楽。
(嫌いなビートルズファンのテンプレの言葉のようになったから話題を変えよう)

JOKERの感想で「芸術とは、ひとの心のマイナスをプラスに変える行為」という森博嗣さんの言葉を引用した。偉そうに引用しておいて恐縮だけど、この映画の中に人の心の中のマイナスの葛藤や、掘り下げた苦悩のディティールなんてものはない。
音楽にこじれた売れないミュージシャンの不器用な独白と陳腐な王道の(めぞん一刻のような)ラブストーリーだ。

正直言うと、この映画を「最高!」というのに若干の気恥ずかしさも感じるし、多分映画好きなひと達はしたり顔のビートルズファンのようにこの映画の感想を眉間に皺を寄せて論じるんだろう。

でもしょうがない。この映画の全ての登場人物がかわいいのだ。それ以上でも以下でもない。
アステアのミュージカルコメディのように悪人は出てこない。苦悩もない。奥行きもない。
だけど、この作品には愛とセンスが溢れている。

そう、まるで兄弟が書いたラブレターを読んでいるような感覚。
こっぱずかしく、そして不器用で愛おしい。

まぁ人生なんてそんなもの。

僕は評論家じゃなくてただの映画好き。
この映画に惜しげもない拍手をし、ラブレターの返事としたい。


p.s.

OASISの扱い最高
kiguma

kiguma