ベイビー

ラストナイト・イン・ソーホーのベイビーのレビュー・感想・評価

4.2
開始5秒で"好き"だと確信。

導入バッチリ。いきなりミュージカル調で始まり、主人公エリーの持つ可愛いらしさを開始早々見せつけてくれました。

よく見たら綺麗なドレスは新聞紙を使った手作り。エリーの部屋も60年代で彩られたオシャレなレイアウト。音楽はもちろん60′s。しかも今どきレコードで聴くというこだわり。そして鏡に映る女性の姿…

そうやって開始5分も経たないうちにエリーという人柄の魅力がしっかりと伝わって来ます。とても見事な導入シーンです。

ただ、そのシーンの見事さはそれだけで終わるのではなく、この短い時間の中に物語の核となるエレメントをしっかり詰め込んでいるんですよね。ほんのわずかな時間の中でエリーのキャラクターと物語の骨組みをしっかり示してるんです。本当にお見事、まさに技ありな演出です。

ファッション
ソーホー
60年代
霊感
鏡…

もうこのワードさえ分かれば後はエドガー・ライト監督の映像マジックに酔いしれるのみ。本当に魅せ方がお上手ですよね。まるでアニメの様な異次元的な映像美。特に鏡を使った演出がとても凄かったです。

それと何と言っても音楽が最高。やっぱり良いんです。60年代を中心とした音楽が終始耳馴染みが良く、前作の「ベイビードライバー」でもそうだったように、映像と音楽の相乗効果で物語にグイグイ引き込まれてしまいます。本当にエドガー・ライト監督は魅せ方と聴かせ方が上手い。

ソーホーの夜。夢の中…

先ほどこの作品を「アニメの様な…」と表現しましたが、僕がこの作品を観ていて思い浮かんだのが今敏監督の「パプリカ」でした。(他の方のレビューを読んでたら、今監督の「パーフェクト・ブルー」みたいだという意見が多かったですね)

夢と現実が重なるような感覚
夢の中の私
もう一人のワタシ

現実の自分が夢の中の人物と重なってしまう感覚を今敏監督は見事に「パプリカ」の中で表現しています。それは"DCmini"という科学的外部装置があってのことでしたが、今作ではエリーが持つ力"霊感"が夢(過去)の扉を開く鍵になります。"霊"を見る力が60年代の中に入り込むキーとなり、夢の中のサンディと自分が重なって行くのです。

その夢の中、60年代の作り込みは圧巻です。街並み、車、ファッション、建物の装飾に至るまで全てが息を呑むほどの素晴らしい。

そして役者さんたち皆さん魅力的でした。サンディを演じたアニャ・テイラー=ジョイは個性的で存在感があったし、ジャックのマット・スミスもピッタリ役にハマっていて良かったのですが、やはりなんと言ってもエリーを演じたトーマシン・マッケンジーのキュートなお顔立ちは、今作のヒロインとして最高のハマり役でした。

冒頭は田舎娘の印象でしたが、ロンドンで暮らし始めてからは垢抜け魅力的になり、そのうち夢の中でサンディと重なるようなゴージャスさで見違えるような美しさに変わっていきます。どんどん彼女が魅力的になっていくんです。

ああ、本当に良い作品でした。冒頭の印象から崩れることなく僕の"好き"な作品。お話としてはオチに繋がるサスペンス感があまり伝わって来ず、よくある物語の結末でしたが、映像といい、音楽といい、全てが妥協のない作り込みだったと思います。
ベイビー

ベイビー