めしいらず

ミッドサマーのめしいらずのレビュー・感想・評価

ミッドサマー(2019年製作の映画)
4.4
先にディレクターズカット版を観て、そしてこの通常版を観たのだけれど、正直どちらを先に観たとしても印象には大差ないと感じた。削られたドライブ中の会話(ルーン文字にまつわる云々)や川での儀式(ある死体の髪が濡れている理由)などはなくても(あった方がより良いが)取り敢えず問題にはならないだろう。ただ一部カットされたヒロインとボーイフレンドの間のいくつかのいざこざについては、やはりないよりあった方が確実にいい。それらは常に張りつめた彼女の異様さと彼の卑しい品性を肉付けしていたし、その小さな積み上げが終盤の展開に感情的なリアリティを持たせていたと思うから。その分、ディレクターズカット版を観る方が幾分か満足度が高いとは思う。それにしても二つのバージョンを合わせて今年三度目だけれどやっぱり抜群に面白い。長い間の取り方のお尻の辺りがそわそわするような居心地悪さがクセになる。時折ゆらゆらと揺らぎ蠢く映像は、薬物常習者の幻覚を見るような気持ち悪さで、私たちの精神を眩惑して止まない。村人の思惑に導かれるように自ら隘路へ行き止まりへと向かう若者たち。しかし祝祭はまだ途中。この後に”九十年に一度”の意味を知ることになるのだろうか。その先で何が待ち受けていたとしても、ヒロインはきっと喜んで受け入れるだろうと私には思えた。穢れを祓い落としてせいせいしたと言わんばかりの不敵な微笑み。まるで爽やかな青春映画を観た後かのようなエンドロールの落差は何事?
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