伏暗

ミッドサマーの伏暗のネタバレレビュー・内容・結末

ミッドサマー(2019年製作の映画)
3.2

このレビューはネタバレを含みます

うーん。僕はヘレディタリーもそれ以外のアリアスター作品も観たことがないので、よく分かってない人間なのかもしれないけれど、これ、よく分からん映画でした。僕はすぐに何かを期待して映画を観てしまうので、本作にもちょっとした期待をしていて、まぁそれは「閉鎖的な共同体のなかの特殊な善意が部外者を苦しめていく」っていう展開だったんですよね。それってただのスリラーでもなくて、ホラーでもなくて、閉鎖的共同体(カルトとか古くさい会社組織とかマルチとか)すべての病理で、そういうものが観られるだろうと待ち構えていたわけ。そういう邪悪って普遍的でしかも論駁しにくくて、面白いじゃないですか。そういうの好きなんですよ。

なのだけど、これがまぁ最終盤で打ち砕かれてしまうんですよねぇ。実は「カルト教団は最初から部外者を生贄にして共同体の安寧を祈ろうとしていた」わけなんですよねぇ。いや、この設定かなり厳しいです。ああいう儀式的なことをまだ、純粋な善意からしていたならアレなんですけど、作中のあらゆる描写がそこの善意性を否定しちゃうんですよね。いや、最初の数十分はもちろんそうじゃありません。正しく迎える死は、とりわけ自殺は「救済」だと、そういう死生観だって出てくるんですから。だけども、途中から狂ってくる。その死生観が部外者には適用されていなくて、稀人はたんなる道具だということになってしまう。バレてしまう。こうなるとやっていることがB級カルト教団スリラーと同程度ってことになっちゃって、その描き方が主人公の救済であるか、あるいはパニックであるかという点にしか違いがなくなる。こうなると、僕的には、画の外連味などというものはどうでもよくなってきて、利己的な狂信者どもの邪悪に付き合わされた若者と変な女主人公へのお疲れ感くらいしか覚えなくなってくる。中盤までは本当に面白かったんだけど、残念です。ペレくん、カルトに関係のない他人を苦しめる気しかなかったのなら、ただの厄介者なんですから、ちゃんとお前も死んでくれ。この辺まじで展開がつまらないのでもうちょっとこう、たとえば全部、ダニーの見た幻覚くらいの感じにして欲しいくらい。

結局、最後の笑顔は、妹と両親の死に対して適切な答え(=死ぬべき時に死ねてハッピーおめでとす)を与えられたってことなの? そこのテーマに対しての回答もドラッグとカルト儀式で覆い隠されててよく分かんないまま。僕の感受性と読解力が低いというご意見は引き受けますが、重いテーマをヤバめの儀式とトリップで乗り切るの、上手いとは思うけど偉いとは思わないな。それとも僕がなにかを見逃しているのかな。分からない。ゴミ屑クリスチャンをぶっ殺せてハッピー、みたいな感情じゃないことだけは信じておきたいんだけど。なんかその辺のキャラクター造形がよく分からん。金枝篇的な企てとか作中儀式の論理とかそういうのはどうでもよくて、そこをちゃんと書いて欲しかった。展開もテーマも不満足。シャブセックスが吹っ飛んじゃうくらい不満足。でした。

ただ、まぁ画の話もしておくと、老女の裸体って美しいなぁ、というのと色彩はきれいってのは一応あります。ああいう情景が好きなら観に行って損はないかも。ただ、宗教的にも特にピュアなあれこれが出てくるわけではないし、特に美しいものではないので、魂の高潔さみたいなものを求めて観にいくのはオススメしない。クズとアホとクソと邪悪しか出てこないぞ。作品自体から得たものは特にありませんでした。なぜか『赤い影』を思い出したのが印象深いくらい。セックスシーンのせいじゃなくて、たぶん夫婦間ギスギスのせいだよね。

シャブのせいか、噴飯物のシーンは多々あり、シリアスな笑いってこういうのか……という妙な気付きはありました。シャブはヤバい!シャブはシリアスな笑いを生んでしまう!シャブはやめよう!シャブ映画!
伏暗

伏暗