このレビューはネタバレを含みます
これ、なんか舞台演劇くさいというか、凄いか凄くないかでいうと凄いし、泣けるか泣けないかでいうと泣けなくもないんだけど、それ以上に、ウェルメイドが鼻につく映画でした（じゃあお前はどういうのが観たいんだよ←すんません）。いやだってさぁ、全編１カット（じゃねぇけど！）のスーパー没入感とか言われるとさ、やっぱり映画っていう枠組みとかシナリオくささをぶっちぎったものを期待してしまうじゃん。でもそれで出てくるものが、完全にコントロールされた映画中の映画なわけじゃん。いやそりゃ、コンセプトをよく考えるとコントロールが重要になるのは当たり前の話なんだけどさ、全編ほぼ１カット→シナリオ上で時間経過を表現しづらいとか、色々と制約のある脚本になるのはしょうがないとして、あそこまで舞台を造り上げたのに、できることは結局、シナリオを動かすための演劇なんかぁとなるわけよ。なんつうか、8時間かかる道程をいかに2時間に短縮するか、という技巧を見せられはしたけれど、8時間を生き抜いた人間の重みを見せるものにはなっていなくて、やはりそれはワンカットにこだわった弊害じゃねぇのとか思ってしまうわけ。もっとも、気絶してからのシークエンス（というには長すぎだからワンショットというべきかな）は、凄まじい没入感と緊張感だし、あの廃墟での酩酊感や幻想感、そしてそれが森へとほぼ地続きであることはすごいと思うんだけど。じゃあそれがどうなの？それがなんなの？っていうと、「いやなんでもねぇなこれ……」っていう虚無なんですよ。そこまでして生み出されたワンショット、飽きさせないよう、シナリオ上にイベントを配置しまくってゲームみたいになってしまったそのワンショット、シナリオから自然さを取っ払って生み出されたものに如何程の価値があったのか。うーん。ない。妙なこだわりだったと思う。トゥモローワールドの終盤、あの長回しは好きなんだけど、あれは無理やり、そのためにシナリオが生まれてるわけではないやん。あれは別にワンショットで撮らなくてもいいけどそうしたわけで、だからこそ、価値がある。本作は、ワンショットで撮らないといけないから撮ったはずなのに、そこで本来生み出されるべき現実性とか自然さというものが、むしろ取りこぼされてしまって、一連のよくできた演劇に成り果てていた。だからわざわざ、ああいう風に撮ったというところには、価値があまり感じられない。その辺、きっと、カメラ以外の部分で観客と一体にならないといけなかったんだろうけど、じゃあこの映画と僕がどこかで一体になれたかというと、それもなくて、やっぱり脚本くささ、シナリオのためだけのイベント消化とか、凡庸な台詞回しとか、リアリティラインがくブレの主人公補正とか、醒める要素があるわけで。で、僕はそういうののほうが気になってしまうタイプなので、なんつうか、どうにも響かないわけで。もちろん、「あそこらへんの戦争を題材にした演劇です！」って気持ちで見れば、凄さはあるんだけど、じゃあそれでなんやねん、訴えたいこと、見せたいものはなんなの？ってなったときに、もしかしてこれ、泣けはするけど、やってることはクソ陳腐なのかもって思う程度にはパワーがなかった。すくなくとも、観客があそこから何かを拾いあげる、という観方をするには、演出過剰すぎてぷんぷんだった。だからまぁアトラクションとして２度目３度目とみれば、そこにはもう現実性も偶然性も期待しなくて済むので、面白いのかもしれない。たぶんそれとして観れば楽しめる気がしなくもない。さっき中身が虚無だと言ったけれど、赤ん坊と見知らぬ女のシーンとか、最後の虚無感情とか、たぶんなにか雑多な背景としてみれば拾い上げられるものはあるはず。美術も舞台も手が込んでいて、すごく画はいい映画なので、シナリオをガン無視して画面だけを観ていればたぶんかなり楽しめるような気もする。あとはまぁ、8時間とか6時間とかを意識しないことですね。その辺を観たがるとワンショットであることに腹が立ってくるからな。ロードオブザリングはすごく長い旅を３作に渡ってやるわけで、あれは本当にもう眠たくなるくらい長いんだけど、まぁやっぱりそれだけの長さは感じるわけよ。長いのは偉い！だから、もうずっと草原だか森だか塹壕だかを歩き続けるだけのクッソつまらない退屈な画を、３時間くらい観ていたかったぜ（寝るけど）！！そして廃墟ではもうアホみたいにドアップにして、男の泥と埃まみれの顔だけ観ていたかったぜ！！あと、川には落ちなくて良かったぜ！！！桜の花びらが流れてきたのは演出過剰だぜ！！！アラビアのロレンスのいっちばん最初のシーン、ジリジリ、ジリジリと画面に何がでてくるのかを待ち続けるあの時間、愛してるぜ！！おやすみ！！ちなみにドルビーシネマで見たぞ！！字幕が明るすぎて台無しだ！！もっとサイズダウンして灰色にでも塗ってくれ！邪魔だぞ！！
