るる

ミッドサマーのるるのネタバレレビュー・内容・結末

ミッドサマー(2019年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

2020.3.1.
夏頃だっけか、公開前、先行ビジュアルを最初に見たとき、あの丸と三角を組み合わせた木製のオブジェを見た瞬間から、ああ、『ウィッカーマン』じゃん、と。

オリジナル版見たことないけど、ニコラス・ケイジ主演のリメイク版は魔女要素ハンパでガッカリした、魔女といえばリメイク版『サスペリア』にもがっかりした、第四派フェミニズム が盛り上がってるいま、ウィッカーマン的なことをやるなら、異端の魔女たちの宴ではなく異教徒の巫女たちの儀式ではなくアマゾネスの怒りではなく、それらしい表現で見たいよなと思って、『ヘレデタリー』で名高いアリ・アスター監督なら信頼できるんじゃないのかなと心掴まれた。

しかしちょっと事前に情報を入れすぎたこともあり、どうしたもんかな、カルトってマジで嫌いなんだよな、でも前評判を知れば知るほど、自分がこの映画を見て果たしてデトックスできるか、癒されるかどうかは確かめたいな、『リトル・ランボー』のウィル・ポールターの成長も気になるしな、でも見ちゃうとしばらく引きずりそうでイヤだな、まあでも思いのほかヒットしてるみたいだし、意外とライトなのかも、、と気乗りはしないまま、ほとんど意地で見に行った。

が、コンディション最悪でほとんど寝てしまった、映画館でここまで寝るなんて初めてのことでショックなんだけども、、サントラがいいな、、シームレスな画面の移り変わり、、視界が逆さまに、、視界がゆがむ、、村について自己紹介、繰り返される名前、不穏、、バッドトリップつら、、たわむ木々、、嗚呼これがホルガ村、、子供達と見る映画にオースティン・パワーズをチョイスする、絶妙なズレ、、とうつらうつらしていたらぐっすり寝てしまっていて、

起きたらあの、クライマックス直前だった、あの最後の曲の、ちょうど始まりあたり、小屋に運び込まれる男たち、熊の毛皮を着せられてうつろな目をした男、噂には聞いていた、主人公のボーイフレンドの結末…でも待って、そんなことある? 

突然、あの、クライマックスの只中で、目覚める衝撃、映画館で目が覚めたらあのシークエンスの渦中にいた、もう、圧倒的な鑑賞体験だった。映画館の大音量で、高まる音楽を聞きながら、火をつけられ、焼かれていく男たち、自分の身体が燃えていることに気づき、我に帰って叫び出す男、燃え盛る炎、発狂したように体を揺すり泣き喚く女たち、踊るように体を震わせる村人たち、引き攣れるように昂る弦楽器の音、けたたましい不協和音、わけもわからず圧倒されながら、目の当たりにした、噂には聞いていた、口角を上げる彼女、あの、彼女の笑顔、、、

しびれた、たしかに祝祭感があった。凄かった。すぐこの曲をダウンロードした、、、

再見したい、たぶんこの体験を超えることはないし、もう配信待ちでいいかな、、と思ったものの、あのクライマックスをきちんと味わうためには映画館で見ておくべき、さもなくばちょっとあまりにも異様な記憶として残ってしまう、それは避けなきゃと思った。

一番大きなシアターの、そこそこの客入りで、席位置が悪くて、空間の余白が気になってしまって乗り切れなかったので、小さめのスクリーンで、人がまばらな時期を狙ってじっくり体感したい気持ち。。しかし、ロングランしそうな雰囲気ではあるけど、新型コロナウイルスのせいでどうなるかわからんしな。。いやでも余裕があれば。爆音であの曲をもう一度聴きたい。。

なんにせよ、アリ・アスター作品…挑戦したい。『ヘレデタリー』も絶対苦手と分かっているので鑑賞に二の足を踏んでるんだけど。チェックしたい。


2020.3.5.
というわけで日を空けずしっかりリベンジ。『ナウシカ歌舞伎・後編』とはしごして口直しする予定をたてて、何が起こっても大丈夫、気持ちが落ち込んでもナウシカが待っている、大丈夫、という気持ちで臨んだ。マスクをしているひともいれば、つけていないひともいた、コロナ流行が徐々に。

大きめのスクリーンのけっこうな客入りの中、一番後ろの席で、お隣が若い男女カップルだった、女性のほうはゴスっぽいメイクで、漏れ聞こえる会話から、男性のほうは明らかに映画デートなら作品はなんでもいいという態度だったので、なんだかソワソワしてしまった。だってこの映画をおそらくは彼女の趣味で見に来てるカップルって、心配になるよ、しかも一番後ろの席で。イチャイチャが始まったらどうしようかと。観賞後に気まずい空気になってたらどうしようかと。

とにかくリベンジだ、と集中して鑑賞。感想見てるとあの村のカルト描写への嫌悪をよく目にするけど、そんなにかな? 同調圧力の怖さとか、もっとしんどく見せることもできたと思うんだけど、そこまで感じなかったな。そのへんはべつにホラーとして描こうとしてるわけじゃない気がした(監督のその感覚が怖い、という意味の怖さならわかる)

ダニーのズレには共感する部分もあっていたたまれなかったし、グロの悪趣味さがとにかく不快だったけど、他はそこまで。。

文化人類学をかじってしまったせいか、そういう風習なのね、えらく原始的だけど、厄介な集団だな、なるべく近付かないことだよな、とわりとあっさり納得してしまった。それがダメなのはわかってるけど。

"普通の"社会集団になかなか馴染めなかったダニーがカルト集団のルールにめちゃくちゃ馴染めてしまって、集団内で認められ肯定され癒しを得ながら力を発揮して登り詰めていく、という意味では、もっと怖く撮ることもできたと思うし、ダニーの癒しをもっともっと強烈に描くことでカルトにハマる心理とその異常性を浮き彫りにする、という撮り方もできたと思うんだけど、そこまで意図してない気がした(その作り手の無邪気な手つきが怖い、という意味の怖さならわかる)

彼氏が殺されて血まみれになったさまを見てけたたましく笑う女、殺人に違和感がなくなっていく女、そういう狂気のほうがよりショッキングだけど、観客はそういう女を日常からはみ出た異常なひと、狂ったひととして切り離すことができる、リアリティが減るぶん、恐怖は薄れる、
それよりも、狂乱する村人たちによって彼氏が燃やされていくさまを見て悪縁を断ち切った爽快感に駆られて思わず笑みが漏れてしまう、自ら手を下したわけじゃない、泣き叫ぶ村人たちによって罪悪感が軽減されて、ふうっと笑みが漏れてしまう女、そういう狂気、そっちのほうが個人に寄り添い、強烈な印象として残るはず、という発想は天才的だと思う、怖がらせようとしてない、本当に癒しとして撮ってると伝わってくる(その感覚が怖いという意味なら痛いほどわかる)

しかし、カルトについて、私が嫌悪しているのは特定個人への盲目的崇拝、教祖への服従、権威的存在による横暴、仲間内の私刑、その権力構造…であって、ただ教義風習慣習を守ろうとする無邪気な人々については、嫌悪よりも、仕方ないな…どうしたもんかな…という気持ちが勝つんだなと思った、部外者だからかな、ここではこういうルールで動いてるんだから仕方ないでしょ、部外者がどうこう言うべきじゃないでしょ、まあでも気になる…でも口出すのは…という。。わきまえたスタンスをとってしまう。

ここが己の付け込まれやすさだと自覚はしているし、集団に帰属意識を持つとルールを率先して遂行する側になりうる、自覚があるので、例えばブラック企業だとか倫理に反する団体への批判精神は持つように心がけてるし、なるべく帰属意識を持たないように気をつけてるんだけど、こういう、村の風習についてはどうかな、見て見ぬ振りして近づかないくらいしかできない気がする、口をつぐむしかない気もする、

だって私は現代日本における結婚式も葬式も大ッ嫌いだよ。でも一応ルールに則って大人しくしている…ファーストバイトには、妻を一生飢えさせない、夫に美味しいご飯を作り続けるという意味があります、という文言を聞きながらそんな愚かしい契約をカジュアルにするなバカ!と発狂しそうになりながら口をつぐんでいる、だって仕方ないじゃないか?? 

意図的な近親相姦で身障者を産ませてアウトカーストの聖人扱いする、倫理的に受け入れがたいと感じるけれど、実際そういう風習のある村に遭遇したら、何も言えないと思う、おそらくあの村で身障者を産むことは名誉なことなのではないか? 当人も母親もそれなりに尊敬され優遇されているのではないか? だったらそこに障害は存在していないわけで、なんの問題もないのでは? 

目の前で人が身投げして死んでも、ここではそういう文化なんだから責めちゃいけないと、言い聞かせるように受け入れたかもしれない。。文化人類学をかじってしまった。しかしクリスチャンは本当に鈍感に見えたね、研究テーマを無邪気に横取りしようとしたり、研究倫理に反していたし、学者としてもヒトとしても不適格と伝わってくる、絶妙な描写だったね。。

オープニングから、妹が双極性障害、と聞いて、うッわそれはきっついな、たいへんだな、と同情スイッチが入ったのでちょっと特殊な観客だったかもしれない。精神医学ではなく心理学専攻のダニー、たぶん、妹のために妹のことを理解しよう、治療しようとしたのではなく、妹と関わる自分や周囲の心理、不安定な妹にかまう両親の心理について把握して心を落ち着けたかったのだと思う、

そこまで察せてしまった。アリ・アスター、たぶん、あの冒頭で、必要なことは全て説明したと思ってる気がする、そこが怖い、普通、精神医学に詳しくなきゃ、あれだけの描写でダニーの大変さなんかわからんからな? 身近にいわゆるメンヘラがいた、それが当たり前だったひとによる作品だと感じてゾワゾワしてしまった、実際どうなんだろう。

彼氏に依存してしまうダニー、仕方ないよな、と思ったな、きっと両親を妹に取られて、寂しさを抱えて、甘え方を知らない長女として育ったのだろうと察するし、厄介者の妹が両親を道連れにして心中してしまった、ダニーからすべてを奪っていった妹…整理がつかんだろう…大学生で、実家からの金銭的援助もなくなったのだろうし、あの心中の仕方、あの家はたぶん売れない、下手すると清掃に結構な金が…遺産もそんなに残らなかったのではないか、壮絶、と行間を読んでしまったので、

つらかったな。。

一方で、クリスチャンの交友関係、"メンヘラ女"を、疎んじる、あの空気感も骨身に染みて知っているものだった。

なんだろうな、ダニーのように男に電話をかけたことがあるし、ダニーのような女から電話を受けて、そんな男やめときなよ、と助言したこともあるし、なんなら男たちと一緒になって、ダニーのような女について、そんな女やめときなよ、と男に助言したこともある、なので、ちょっぴり身につまされてしまった。

あなたにとって理想の男ではないのだから別れたほうがいい、と助言してくれる女友達、頼るべきはそっちなのでは、と思うんだけど、彼氏のホモソな友人関係まで、まるごと愛さなきゃ、良い彼女であらなければ、とこだわってしまって、絡めとられていくさまに、なんともリアリティを感じた、こういう女友達が何人かいる、いた…

そして私はこの映画において、電話越しに助言だけする、声だけしか出演できなかった女だ、ダニーからの連絡が途絶えて心配しながらも、干渉しすぎてもな、一線は引かなきゃ、ダニーと同じになってしまうしな、と心のどこかにしこりを残しながら今後も生きていくことになるであろう女だ、と感じてキリキリと胸が痛んだ。

ダニー、言わんでも良いことを言う。たぶん双極性障害の妹がそういう言動を取りがちだったから言動が似たのではないかと思うのだけれど。"空気読めない"ことを口走ってから「NONONO、違う、私が悪いの、彼は悪くない」と取り繕う滑稽さ、たちの悪さ、客観的に見せられるとなんともいえぬ。。いたたまれないディティール。

しかしダニー、決して自己卑下はしないんだよな。そのへんはさすがアメリカ人だなと思った。彼氏の男友達に混ざるときも不必要に媚びないし卑下しないし、かと言って虚勢を張ることもない、いわゆるサークルクラッシャーや名誉男性的な振る舞いはしない、でも異物。描き方が絶妙だと思った。

タペストリー、ラブストーリーだよ、という台詞の後で映し出される、悪趣味な絵には笑ってしまった、媚薬ねえ

あの食事、あの肉は人肉だよね? 言及されなかったのでモヤモヤした、ディレクターズ・カット版には描写があるのかな。

人類学専攻のクリスチャン、衆人環視の中の自殺を目の当たりにしても文化に偏見を持ってはいけないと語る、彼が今までそういうスタンスでダニーと接してきたことがわかる瞬間で、リアリティがあると思った。

精神医学専攻の学生が日常会話で無自覚に乱暴にこちらの精神分析をしてきたり、精神的に不安定で未熟な年下の彼女を囲い込んでいたり、それは倫理に反することだぞ、と忠告してもなにしろ相手は未熟で無責任な学生だから伝わらない、ということが昔あったのを生々しく思い出したので、あーあー、と。デジャブだった。

文化人類学専攻の学生といえば『サーミの血』も思い出した。よくできてるな。

謎のセックス儀式、相手役の女の子がクリスチャンではなく見守り役の女の手を握るあたり、やっぱり苦笑してしまったけれども、

あんまり"意図"を感じられなかったんだよな、ホラー映画でいつも女が性的に酷い目に合うから今作では男性が酷い目に、というほど、ミラーリングというほど明確でない、フェミニズムというよりミサンドリー、男性嫌悪のようにも見えて、ひたすら居心地悪い描写だった。男だろうが女だろうが性的に乱雑に描かれる様子は不快だなと思ったな…

演出意図を明確に感じられたほうが面白く感じる人間なので、意図がよくわからない、というのはホラー映画として大正解だったと思う。

真っ先に消されるウィル・ポールターのろくでもなさ、知的好奇心に負けて聖典を盗み見て消される男、王道ながらゾワゾワ。

しかしやっぱり、ラストが。良かったな。最初の衝撃は超えなかったし、気持ちが凪いだ時間もけっこうあったけど、心地よい疲れの中で迎える最後の祝祭、というかあの音楽、やっぱり良かった。

彼女はあのままあの村で暮らしていくんだろうか。ひとりだけ笑っていた彼女、やっぱりちょっと向いてないんじゃないか、という気はしたよな。しかし、彼らをあの村に誘った彼、彼はどれほどの嘘をついていたのか、彼の視点で見たい気もした。

2021.9.11
人間生花、クマを被せて、なんでそんなことをするんや。。イチイの木、恐れを感じない、唱えながら口に、ほんとか? 焼かれながら正気を取り戻した彼ら……なんであんなことするんや。。デトックスはできなかった。そんな自分にホッとした。ただあの音楽は圧倒的。
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