Masato

フェアウェルのMasatoのレビュー・感想・評価

フェアウェル(2019年製作の映画)
4.0

優しい嘘、悲しい真実

中国では「ガンは病で死ぬよりも、恐怖で死んでいく」と言われ、本人には癌の存在を知らせないままこの世を去らせることが文化らしい。その文化に納得できないアメリカ在住の主人公ビリーの苦悩と葛藤を描いた実話ドラマ。

この手のドラマで思い出したのは、パキスタン人とアメリカ人の結婚を描いた「ビッグシック」。当時お見合い結婚が根強かったパキスタンの文化と、アメリカなどの先進国における自由恋愛文化の間に立たされ、異文化の衝突により苦悩するカップルを描いていた。本作もテーマとしては全く同じで、アメリカなどにおける死生観などの価値観と中国の価値観が衝突する。

文化というのは、美しくもある反面、残酷であることを突きつけられる。真実も嘘も「おばあちゃんを幸せにしたい」という気持ちは変わらない。文化には罪もなく優劣は存在しないから、納得のいかない気持ちを吐き出せる場所が無い。同じ家族なのに価値観が違うことで、アイデンティティが揺れはじめる。これは移民特有の悩みなのかもしれないが、自分とは異なる価値観や文化とどう向き合っていけばいいのか、答えのない問いに考えさせられる。

やっぱり本人を尊重することが大切で、「人は何を成し遂げたかではなく、どう生きたかが大切」というように、どんな手段で接したかが大切なのではなく、人を想う気持ちそのものを大切にして接することを考えるべきだと思わされる。ただし、答えはない。答えはそれぞれの心の中にある。

そして、中国文化の仰々しく演出することへの裏にある虚しさというか、悲しさが本作には表れていた。それが良いか悪いかは別として。おばあちゃんに対して優しい嘘で幸せにさせることも、披露宴のスタッフが表面上朗らかで態度も良いが、裏では寝てたり、スマホいじってたり、タバコ吸ってたり。パフォーマーがドンドコ太鼓を叩くが、終わればササッと足早に退場したり。泣き屋を雇うことも。「ウソと真実」をこれでもかと強調する暗喩な描写が多かった。
それを見て、私は「やはり表面上取り繕っても嬉しさもないよね」と思いつつも「でも、真実を知らなければ仰々しくて華々しくて幸せだよね」と感じる。

こうして中国の文化を知られたのは良かった。文化に優劣は無い。異文化を知って理解することは、寛容性も培われる。ここまでグローバルかつローカルな映画を作ってくれるA24は最強すぎる。

オークワフィナがゴールデングローブ賞を取って、アジア系がアメリカ社会でキラキラと光りだしてきたのは嬉しい限り。その賞の名に恥じぬ最高の演技。真実を伝えたいのに嘘をつかなければならない複雑で繊細な心理状態を見事に演じた。

余談
終盤のアルマゲドン歩き笑った
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