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TENET テネットのumisodachiのレビュー・感想・評価

TENET テネット(2020年製作の映画)
3.9
IMAXレーザーの大画面で観てきました!クリストファー・ノーラン監督の最新作であり超大作。今年はもうこの規模の大作は公開されないかもしれないから。なんとしてもIMAXレーザーで観ねば!と意気込んで参戦。

CIAで働く「名もなき男」はウクライナでの作戦実行中に捕らえられ拷問を受ける。自殺を図ったもののなぜか男は別の場所で目を覚まし、「君はテストにパスした」と告げられ、第三次世界大戦を防げと指令を受ける。【TENET】というキーワードと共に……。

どこまでストーリーに書けばいいのか塩梅がわからないので、これ以降は実際に観て確かめてほしい。本作の鍵となるのは【時間の逆行】。といってもタイムトラベルのように自在に時間を行き来できるタイプのものではなく、過去・現在・未来と進む時間の流れと同じ時間をかけて現在から過去へと戻れるというもの。でもって、逆行しているときは自分の動きも完全に逆向き?となるし、逆行させた物の動きも逆向きになる。(言葉で書くの難しいな)

まあとにかく、めちゃくちゃ複雑なのだ。ストーリーとしては主人公がいて、バディとなる仲間がいて、明確な敵がいて、敵側に協力者がいるという分かりやすいキャラ設定の上に構成されているのだが、時間の順行・逆行が同じシーンの中でも入り乱れるので超複雑。また、前半に散りばめられた伏線が次々と回収されていくのは終盤なので、途中までは「どういうこと?」状態がずっと続く。

確かに面白かったものの、これは私が映画に対して感じる面白さとはちょっと種類が違うかな。ミステリーや謎解きゲームに挑んでいるような楽しさというか。終盤になるに連れて、頭の中の点と点が線になる瞬間が何度も畳みかけてくる快感を味わえるのだが、それは他の映画を観て覚えるような感動とはちょっと違う。それが本作最大の魅力であり、欠点かな。

本作の登場人物は極めて記号的だ。巨大なパワーを持つ欲にまみれた分かりやすい悪役、弱くて短絡的な分かりやすいヒロイン、主人公と友情をはぐくむ分かりやすいバディ。彼らの背景は最低限しか語られない。話が複雑すぎてその説明だけでいっぱいいっぱいなので(それでも端折りすぎじゃないかと思う)、彼らのバックグラウンドまで描いている余地がないのはわかるし、複雑なストーリーを映像で表現するために敢えてキャラクターを記号的にしているのだとも思う。なんせ、ストーリーの進みが速すぎて立ち止まって考える隙をまったく与えないから。キャラクターは直感的に脳内で整理できるような分かりやすさが必要だったのだろう。

また、主人公である「名もなき男」はドラクエの主人公に名前がないのと同じなので、観ている人間は彼に完全に同化して鑑賞することになる。観客の知識レベルと彼の知識レベルは完全に同じレベルに設定されているから、彼が感じる謎は観客が感じる謎であり、彼が気付く真相は観客が気付く真相になっている。だから本当にゲームみたいなんだよね。VRゴーグルをつけて異様にリアルなSFゲームの中に入り込んだような感覚。終わった後にニールやキャットやセイタ―の印象ばかりが残るのも、そのせいなのだと思う。

ダンケルクの戦いをIMAXのスケールで描いた前作『ダンケルク』も没入感がキーワードとなる作品だったが、あちらは視点が複数の人物に散らばっていたのと、実際にあった出来事という点でゲームっぽさはなかった。ストーリーに謎解き要素もないので本作のようなアハ体験もゼロ。ただ、描かれている要素や我々が持っている知識の補完によって、各キャラクターたちの人物像や背景などの想像はついた。自分が画面の中に入り込んだような錯覚を覚えるのは同じなのだが、『ダンケルク』の場合は自分が映画中に出てくる人々とは別個の人物として参加しているような感じがしたのに対し、『テネット』は自分が「名もなき男」と完全に同化してしまった。そこが大きく異なる点だと思う。

ぶっちゃけ、何度思い返してもカーチェイス前後のセイタ―の動きなんかはよくわからないし、2度も3度も観ることを前提にしている「攻略映画」ってどうなの?とは思うものの、「映画を体験する」ということをここまで突き詰めている映画もなかなかないと純粋に感心する。いまこの時期に映画館で観る価値がある作品なのは確かなので、アトラクションを楽しむつもりで臨むのが正解!

※エリザベス・デビッキは見れば見るほど古川雄大に似ているなあ。

















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