パケ猫パケたん

ひとよのパケ猫パケたんのレビュー・感想・評価

ひとよ(2019年製作の映画)
3.5
2019年に於いて、『麻雀放浪記』、『凪待ち』、そして本作『ひとよ』と3本が公開され、今や日本映画のメインストリームたる白石監督作品、そして今回もクオリティが高い。

鈴木亮平、佐藤健、松岡茉優の個性豊かな三兄妹がそれぞれ均等に見せ場があり、共鳴しあい、また、助け合う。

子供時代の三兄妹を演じる子役たちも、それぞれが巧みで、顔と声質まで似ている点を、まず、評価したい。

この映画の映像的に秀でるところは、
ふとした瞬間に、家庭内暴力の記憶・トラウマが甦り、それが成人した主人公の姿態に、被さって、同じ空間の下で、横移動のカメラの後、やや暗くなった空間で行われる、子供時代の暴力であろう。

生々しいトラウマ・シーンだが、それらは全て、向かって右手側のカメラ移動の後、行われる。辛いが少し脳内で整理されていく感じがする。何か乗り物に乗って揺られていく感覚がする。

田中裕子演じる母親は、気品があり、慈悲に溢れている。娘に髪を切ってもらう姿は寂しくもあり、しかし凛々しい。私はこのワンカットに、平山秀幸監督の秀作『愛を乞うひと』の髪をすく場面を連想した。あの映画のオマージュであると同時に、夕陽の下、バスに揺られて行くその思い出。

私はこの仲のよい三兄妹が忘れ難い。彼らは偉大なる母の背中をみながら、矜持をもちつつ、関東平野の下町を、しなやかに進んで、生き延びていくのだろう。『牝猫たち』のあの三人のように。夕暮れ時のネオンの中を。