スターリン政権による恐怖体制下にあり、内務人民委員部(のちのKGB)による不当な逮捕が横行していた1950年代初頭のエストニア。
当時6歳だったレーロ・トゥンガルの手記を元に描かれている。
大きな家から引っ越してきた家はオンボロ。あんなに大きなおうちに住んでたのにどうして? パパがオリンピックで獲ったメダルをクマにかけてあげてたら、メダルのことは誰にも言っちゃダメだと叱られた。みんなに自慢したいのにどうして? あるときパパとママのお友達のおじさんが現れて、ママを連れていってしまった。お友達なのにどうして?
でもいい子にしてたらママはすぐに帰ってくるって。でもママは一向に帰ってこない。どうして? 私が悪い子だから?
入学式までには帰ってくるって言ってたのに、パパの嘘つき!
6歳の子に、エストニアが置かれている状況が理解できるわけもなく、彼女の無邪気さにクスリとしたりヒヤヒヤしたり。
ワンコはたぶんレーロより10倍賢い。ワンコ、レーロのそばを離れちゃダメ!
見たこと感じたこと知ってることをただ素直に話しただけなのに、大人は気まずげに口を濁す。憧れていた少年団にも入れない。
どうやら自分が見ていた世界は信じていたものと違うらしいと気づいたとき、彼女から少しだけ子どもらしさが消えてしまった。レーロの戸惑いと憤りを表した演技がお見事。
そしてラストのはにかんだ笑顔にホッ。
撮影は「みかんの丘」のレイン・コトヴ。