倉科博文

パラサイト 半地下の家族の倉科博文のレビュー・感想・評価

パラサイト 半地下の家族(2019年製作の映画)
3.8
・新年最初の映画観賞かつ最初の劇場観賞
・本公開前の先行公開にて

【総評】
映画開始前に、監督自らメッセージとして、「絶対にネタバレしないで下さい」とお願いされる珍しい作品。
ただ、確かに作中驚きの展開はあるが、監督本人も言っていたように、特に物語の構造を支えるどんでん返しとかいうわけではなく、ただ単にみんなにまっさらの状態で楽しんで頂きたいという理由との事。
だから、例えば、ユージュアル・サスペクツのように1回目と2回目の鑑賞で見る意味が変わってしまうような作品ではない。

印象として、映画としての「喜劇」を上手く作り込めている作品だった。
物語は、コメディタッチの前半と、ある人物の再来をブリッジとしたスリリングな後半とに分けられると思うが、俳優の演技もよく、キチンと設定上の役割を演じる事で、特に前半ではキチンと上質な「喜劇」が表現されていたように思う。
劇場全体が笑いに包まれるシーンが何度もあったし、僕自身もお腹を抱えて笑ってしまうようなシーンもあった。
若干、後半の構成に違和感はあるが、前半部分の推進力が持っていた慣性で、最後まで引っ張られてしまった。

【俳優】
全体のバランスがいい演技。
その中でも、それぞれの個性や特徴がちゃんと立っていて、素晴らしかった。

そのなかでも、やはりキム・ギテクを演じるソン・ガンホのもはや顔芸とも呼べる演技は飛び抜けていた。
チョン・ジソ演じるダヘの可愛いさも特筆。
あとは、パク・ソダムが演じるギジョンの素直になれない小憎らしさも実に好演。

構成として違和感のあるシーンでも、俳優の演技力によって飲み込めるレベルになっていた点も評価したい。

【構造】
世の中には、多少の努力やそれまでの積み重ねなど藻屑に帰してしまう不条理があるし、同時に多少の背伸びや取り繕いなど、何の意味も無さない厳然とした人間関係や価値観の溝、そして格差も存在するわけで、それに対してとやかく言ってみたり噛みついても、何もいいことなんか有りはしないんだ、という人生の側面をコメディ仕立てにした作品となった。
そして、その格差の象徴を「ニオイ」に託した点は、本当に上手いし、ちょっとゾッとする感覚を覚えた。

主人公は前半から、ハングリー精神を誤った形で剥き出しにし、「自分の望む理想の未来から、その姿を前借り」することから始まり、次第に「現実を歪める」姿勢はエスカレートしていくが、最終的にその過ちに気づき、地に足をつけ、目の前にある課題に地道に向き合うことで、一歩一歩目標のために先に進んで行こう、と気付く。
その代償は、あまりに大きかったが。

一方で、主人公含め、登場人物はみな、完全な邪さの権化というわけではなく、特に「愛」という部分に関しては、一様に直向きに見えるところがいじらしい。

【構成】
この作品内において、主役となる家族の運命の転換点には、両方ともに「大洪水」が象徴的に現れ、それ以降物語は大きく動いていくことになる。

ネタバレに抵触する恐れがあるので、これ以上、構成に関してはあまり論じれないが、後半にビックリする転換点はあった。

それ以降、2つ3つ、「ん?」という不自然な点もあったが、前半部分の推進力のお陰で、最後まで見れてしまった。
(見られていないとはいえ、人様のいる場で、嫁の尻を弄るような男が、そんなこと気にするか? とか、そんな過度な感情の噴き出し方は逆に不自然じゃないか? とか、あんなことが起こったのに、そこ見つからないの? とか)