umisodachi

ストックホルム・ケースのumisodachiのレビュー・感想・評価

ストックホルム・ケース(2018年製作の映画)
3.5


誘拐・監禁された被害者が犯人に好意的な感情を抱いてしまう「ストックホルム症候群」の元になった事件を描く。

1973年ストックホルム。ラースは銀行のロビーで発砲し、女性職員2人を人質にとって立てこもった。警察との交渉で刑務所にいる仲間グンナーを連れてこさせることに成功。続いてラースは逃亡のための取引を開始したものの、警察はラースたちに殺意がないと判断。封じ込める作戦に出て……。

ラース役のイーサン・ホークの魅力爆発。もはやイーサン・ホークを堪能することが第一目的なのでは?というくらい。明るくて、ちょっと抜けていて、根が優しいから残酷なことはできなくて、すぐに他人に同情してしまう悪党。変装したり仮名を使ったりししているものの、当然即バレ。すぐに混乱して焦っちゃうし、見ているこっちがハラハラする究極の母性本能くすぐりキャラだ。

ラースの仲間グンナーを演じるのはマーク・ストロング。ラースよりは冷静で冷酷な面もあるグンナーだが、殺人を犯すような犯罪者ではないしリスクはできるだけ回避しようとする。行き当たりばったりのラースにイライラするものの、ラースが良いヤツなので嫌いになれない(っていうか好き)。私はマーク・ストロング大好き人間なのでこちらもご褒美でしかなかった。

物語は人質の1人ビアンカの視点で語られていく。2人の小さい子どもを抱えるビアンカは、地味だけれど賢くて度胸が据わった女性。しかも庇護本能があるためラースたちを放っておけない。警察がラースたちをナめているのにもすぐに気づいて、段々とその怒りは警察へと向いていくことになる。

紛れもない犯罪映画なのにタッチが軽すぎない?とは思うものの、ビアンカの感情の動きが丁寧でリアリティがある。会いにきた夫に対して「冷蔵庫の中に魚があるから食べてね。調理方法は……」と現実的すぎる指示を出したり、夫がその指示に従わなかったと知って軽くイラっとしたり。「ここで死んだらもう二度と子どもに会えなくなる」という絶望に駆られそうなものだとは思うのだが、実際にビアンカのような目に遭ったら妙に冷静になってしまうものなのかもしれない。

だって、普通に仕事していたら銀行強盗がやってきて、自分を人質に取るって……ねえ?犯人が誰かを実際に殺していたらものすごい恐怖だと思うが、ラースたちは誰も傷つけていないし、どこか現実じゃないのでは?という感覚になるような気もする。人間は危機に直面すると「自分は大丈夫」という正常化バイアスが働くのだそう。ビアンカが想定しうるバッドエンドはたくさんあるのだが、ああいうときに自分が死ぬという実感はなかなか持てないのかもしれない。

ストックホルム症候群については、「そりゃあんなに魅力的な犯人なら無理もないよ!」と思ってしまうので、このキャスティングとキャラクター形成が正解なのかは疑問だが、キャスティングと丁寧な脚本によって説得力があるのは確か。ライトな映画ではあるが、イーサンファンにとっては間違いなくご褒美映画なので、イーサンに目がないあなたは迷わずGO!


umisodachi

umisodachi