空海花

はちどりの空海花のレビュー・感想・評価

はちどり(2018年製作の映画)
4.1
女子中学生ウニの日常を描いた青春映画。
不安定な思春期特有の激しい揺れ動きが
真摯に淡々と描かれている。
季節の移り変わりのように
瞬間瞬間、よそ見をしていたらきっと見つからないような
あちこちに散らばってしまう光の欠片のようだ。

こういう描き方って、自分の過去の心象にも
いつの間にか思いを馳せてしまうんだね。
ウニのその時代には、
1994年のソンス大橋崩落という大きな出来事がある。
学歴至上主義や職業格差、男女格差など
当時、特に色濃かった社会情勢もあって
いわゆる時代の過渡期に彼女は居る。
思春期は何だって大事になるけれど
その中でウニは確かなものや、自分の思う正しいこと、好きということをゆっくりと見極めていく過程にいる。

これを撮ったのは女性監督で、
しかもこれが長編処女作だという。
自身の中学時代をベースにして
構想7年をかけて作られたのだとか。

中学時代の思い出なんて
甘酸っぱくて、苦々しくて
大人になり時間をかけて見つめるのは気が引けてしまう作業だ。
監督は大人になって、その頃の夢を見たらしい。なるほど。
私もあるわ。繰り返し見た夢。
いや内容は同じではないのだけれど
場所が同じというか、マップが同じ。
スタートは昔住んでいた家で
時々別の方角に行ってみるけれど
同じ方向に行く確率高め(笑)
時々そのマップはアップデートされる。
夢なのでもちろん実際の地図とは違うし、
もう、見なくなったが。

今思えば、中学時代なんてある意味物心ついていないようにも感じるけれど
その時感じたものを完全に忘れてしまえば
自分からの疎外感を大人になっても味わうことになるだろう。

ウニはまだ自分が何者なのかわからない。
大人からの無関心が行き場のない不安を彼女に抱かせる。
漠然とそれを誰かに探して
強がったり、ふりをしたり、時にやけになる。
形はないけれどそれは自分の中で形になれば
そんなことする必要はないのだとわかる。
それでも先生の話、言葉で聞いてみたかった。
橋や本、出て来るアイテムが象徴的。

母親がチヂミを焼くシーンでは
どちらかといえば自分が焼くはずなのに。
焼いてほしくなっていた。

“はちどり”は色のきれいな小さな鳥。
少しかしましく、地に足のつかない鳥、声を真似る鳥…など色々と中学生に合わせて連想した。
これが大人の要らぬ詮索というものかもしれない。


2020劇場鑑賞No.83/116


少し長さを感じてしまいました。
それでも、隣の国の少女の思春期は新鮮に感じたし
監督の繊細さと美しさと、秘められた芯の強さを感じられる作品でした。
空海花

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