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バイバイ、ママのakrutmのレビュー・感想・評価

バイバイ、ママ(2004年製作の映画)
3.7
両親から愛情を受けずに孤独な少女時代を過ごした主人公の女性が、自分の一人息子に異常なほどの愛情を注ぐがゆえに壊れていく姿を描いた、ヴィクトリア・レーデルの同名小説を原作とする、ケヴィン・ベーコン監督のドラマ映画。1996年にTV映画『Losing Chase』で監督デビューしているケヴィン・ベーコンにとって、劇場公開映画の監督としてのデビュー作となる。もちろん主演は、愛妻のキーラ・セジウィック。二人は今でもラブラブなおしどり夫婦として有名。

本作の出来は決して悪くない。ベストセラー小説をかなり実直に映像化しているようで、些末な部分で物足りない面はあるものの、全体の構成やストーリー展開は優れている。そして、キーラ・セジウィックの演技は称賛すべきレベルにある。代表作の『クローザー』のブレンダ役もそうだけど、ちょっと癖があって自己中心的なキャラがよく似合う。本作のエミリィも息子に異常な愛着を示す女性を見事に演じている。決して単なる縁故採用ではない。

それでも本作を名作と呼ぶには躊躇するのは、映像化の限界のせいかもしれない。小説だと自分でイメージをじっくりと自由に作っていくことができる(つまり、自己流に解釈する余地が残されている)のに対して、映画の場合には映像がまず先に来るので、そこから受けるイメージ・印象に大きく左右されてしまう。本作で失敗だと思ったのは、映画の空気を緩め過ぎてしまった点であろう。こういうテーマだからといってシリアスにする必要はないが、主人公のエミリィが息子を妊娠するまでのプロセスや、ケヴィン・ベーコン、マリサ・トメイが演じている両親の言動とかがちょっと軽すぎて(マリサ・トメイはどんな演技をしても許せるのだが)、それ以降の展開との釣り合いが取れていないのが難点である。ここら辺のさじ加減は、鑑賞側によって最適点が変わるので、なかなか難しいとは思うけど、もう少し締めてほしかった。

それにしても、家族・親族総出演の映画という点も特徴的である。ケヴィン・ベーコン、キーラ・セジウィック夫妻はもちろんとして、娘のソシー・ベーコン(少女時代の主人公役で出演、本作がデビュー作)、息子のトラヴィス・ベーコン(どの役かわからなかった)、キーラ・セジウィックの弟ロバート・セジウィックが出演しているし、ケヴィン・ベーコンの兄であるミュージシャンのマイケル・ベーコンが音楽を担当している。一見すると身内映画だと揶揄されそうにも関わらず、サンドラ・ブロック、マリサ・トメイ、マット・ディロン、オリバー・プラットなど錚々たる俳優たちが出演しているのは、Six Degrees of Kevin Bacon(ケヴィン・ベーコンからの6次元の隔たり)と遊ばれるほど顔が広くて人望が厚いケヴィン・ベーコン監督ならではであろう。
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