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燃ゆる女の肖像のakrutmのレビュー・感想・評価

燃ゆる女の肖像(2019年製作の映画)
3.9
18世紀末のブルターニュ地方の孤島を舞台に、自殺した姉の代わりに望まぬままにミラノの貴族に嫁ごうとしている令嬢エロイーズと、彼女の肖像画を描くために呼び寄せられた女性画家マリアンヌがお互いに惹かれ合っていく姿を描いた、セリーヌ・シアマ監督の恋愛映画。主役の2人の他に、エロイーズの母と女中という4人の女性しかほぼ登場しないという、女性だけを描いた作品であり、そこにはセリーヌ・シアマ監督のさまざまな想いが投影されている。

令嬢エロイーズを演じるアデル・エネルは、私生活ではかつてセリーヌ・シアマ監督と恋愛関係にあったことがあり、本作の脚本も彼女を想定してあて書きしている。一方、近年多くの映画に主演している注目株のノエミ・メルランが画家マリアンヌ役に起用されている。本作がノミネートされた2020年の仏セザール賞で、ロマン・ポランスキーの監督賞授賞が発表されると、アデル・エネルと、セリーヌ・シアマ監督、ノエミ・メルランが退席したということでも話題となった。

とにかく、絵画を思わせるような芸術的な映像が特徴的な作品である。ジョルジュ・ド・ラ・トゥールの絵を思い起こさせるような1本のろうそくだけで照らされた室内を写すシーンや、暖炉を背景に3人の女性がテーブルに並んで過ごす構図など、絵画的な映像がとても美しい。本映画にとって重要となる、ドレスに火がついたままエロイーズが佇むシーンなども印象的。

一方で内容的には、上記の火のシーンなどが象徴的に使われているものの、二人の心の動きが細かく描ききれていない(と個人的に感じた)点は少し不満だった。終始ポーカー・フェイスのアデル・エネルを見ていると、前半は配役を逆にしたほうがよかったと思えてしまうし(最後まで見るとそうではないのだが)、それが後半に生かされることを期待したわりにはそうではなかった。ポーカー・フェイスが悪いわけではなく、また言葉の端々に二人の心情が暗示されているものの、お互いに惹かれ合っていく様子や心情をもう少し効果的に描いてほしかった。これが満たされていれば、自分の中で間違いなく超傑作となったであろう。

また、短期間で終わる運命にある悲愛なのにも関わらず、エロイーズがみせる淡々とした感じも、ん?となったが、これはラストシーンを印象的なものにするためにはよかったのかもしれない。そういう不満を感じていた中で、2つのラストシーンはとても切なく、印象的で、深く心を動かされた。このシーンを見て、エロイーズ役をアデル・エネルが演じたのが腑に落ちた。本映画は、ラストシーンのためにあると言っても言い過ぎではないだろう。
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