うめまつ

名もなき生涯のうめまつのレビュー・感想・評価

名もなき生涯(2019年製作の映画)
4.2
人間が持つことの出来る最も美しいものは、艶めく髪でもきめ細かい肌でも鍛え上げられた肉体でもなく、その内側に宿る魂だということを証明するような映画だった。高潔という言葉はフランツの為にあると思った。どんなに身体を踏み躙られても、彼は己の魂を誰にも汚させなかった。そして彼も他人の魂を汚すことを自分に許さなかった。それは彼にとって当たり前のことだったから。誰かの倒れた傘を直すことと、人としての尊厳を守ることは彼にとって等しかったから。信念と呼ぶような頑ななものではなく、土が湿るように草が伸びるように風が鳴るように雲が泳ぐように、彼はただその場所でごく自然に生きようとしただけ。蝶の背中にカメラを乗せたような軽やかな映像が、誰にも縛ることのできない彼のしなやかな心を象徴しているようだった。それは何処までも飛んで行けそうに自由だった。
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