亘

バクラウ 地図から消された村の亘のレビュー・感想・評価

3.8
【民衆の力】
ブラジル北東部ペルナンブコ州バクラウ村。開発の遅れたこの村がある日地図から消され、さらに停電や住民の殺害事件が連続して起こる。村人は、荒くれ者ルンガを呼び戻し外来者との闘いを始める。

ブラジルを舞台にした現代(近未来)版西部劇。住民はスマホや車を使いこなしていているし後半はバイオレンス物ではあるけれども、権力者や外来者の横暴に苦しんだ民衆が荒くれ者を呼び戻して戦うという物語の構成はまさに西部劇。そこに町の壊滅を狙う集団の謎も加わり目が離せない。

ブラジル北東部ペルナンブコ州。バクラウ村は経済発展の遅れた地域にあった。必要物資は村外からの供給に頼り、さらには近隣のセレヴェルデ市のポピュリズム政治家トミー市長からは冷遇されていた。トミー市長は、バクラウのような寒村を食いつぶして本拠のセレヴェルデ氏を豊かにして人気を取ろうとしているのだろう。トミー市長は、村の水の供給を止めたり一方で申し訳のように物資を"供給"していた。

ある日首長であったかるめりーたの葬儀が盛大に行われた。その後から村の周囲では謎の事象が起こり始める。めったに来ない観光客の愛豊、村への道路に飛ぶUFO、給水車の襲撃。さらには農場一家をはじめ次々と村人が殺されてしまう。村の危険を感じた村人は、荒くれ者のルンガを呼び戻す。

一方の外来者舞台のやり取りも興味深い。みな人を殺したがっているし、村の壊滅を狙っているのは分かるが、何が目的なのか背景は読めない。仲間割れも起こる。ただ村人との対決が近づくことは感じられて緊張が高まる。

終盤の外来者との直接対決は、緊張の高まりから一気にバイオレンスの連続になる。外来者の方がプロの傭兵たちで有利に思われたが、初めは静かに対峙しながら、古い武器でも一気に攻撃を仕掛ける。村人たちの勝利とその後の外来者と市長への仕打ちはすっきりはするけれども、何かすごく大きなカタルシスがあるわけではなくて、良くも悪くも西部劇である。

とはいえ、本作がカンヌで評価されたのは、社会風刺の作品だからだろう。トミー市長のど派手なトラックや"偽善"のパフォーマンスはまさにポピュリズム政治家とか政治腐敗の典型だろう。それにブラジルの経済発展の陰でいまだに近代化の遅れているブラジル北東部の姿を示して経済格差を訴えようとしているようにも思う。本作が公開された2019年はブラジルでボルソナロ大統領が誕生したし、ポピュリズム政治の台頭が背景にありそうに思う。

ただ日本のポスターはUFOや「狂っている」という言葉を使ったB級枠のようなプロモーションでポイントを外していると思う。確かに突然出てくるUFOや謎の組織など突飛な設定もあるけれども、オリジナル版の西部劇を模したものの方が実態に即しているしおしゃれだし、プロモーションのせいで本作が期待外れとされないか不安なところ。

印象に残ったシーン:歴史博物館で村人が蜂起するシーン。

余談
本作の中で、「バクラウは鳥の名前」と出てきますが、”Bacurau”はヨタカのことです。
亘