ひでやん

マティアス&マキシムのひでやんのレビュー・感想・評価

マティアス&マキシム(2019年製作の映画)
3.9
そこはかとなく揺らめきハート。

先ず最初に気になったのがドランの顔にあるあざ。そりゃあ気になります。人を見るより先にあざを見るから気になる。マキシムの友人たちは、人を見ているからあざが気にならないのだろう。ドランの実際の友人たちがマキシムの友人役を演じているので、ワイワイくっちゃべってるシーンは親密な雰囲気。

ドランはあざについて「僕の心にある傷のようなもの」と語っている。自分では見えないが人からいつも見られていて、友人といる時は忘れているが、鏡を見て思い出す。そのコンプレックスはドラン自身のセクシュアリティを表しているようだ。今作は、どうでもいい事をぺちゃくちゃと喋り、肝心な事は映像で語っているので、各シーンに色んな解釈ができる。

道路のど真ん中を走るオープニング。それは友情車線と恋心車線のどっちつかずの迷い、或いは、ど真ん中を突っ切る揺るぎない想いにも思える。洗った皿を2人で拭いているシーンは、明かりのついた小窓を外から撮っているのが印象的。アスペクト比を画面中央にちっちゃく縮めたようで、世界から切り離された2人だけの世界に思えた。

映画の撮影シーンでも外から室内を撮り、覗き見る友人たちをシルエットにする事で匿名性を持ち、2人に対する周囲の目となる。そして終盤で外から2人を映した時は、降り出した雨で洗濯物を取り込む友人たちは、自分の事で精一杯な他者となる。撮影後、海で泳ぐシーンは、心に芽生えた感情を洗い流すようだった。夜明けの海で孤独な魚になっても、その感情は容易く流れたりしない。

言葉尻を取る取らないの賭けで始まり、ワイワイお喋りして、言葉遊びゲームで盛り上がり、耳打ちした言葉で盛り下がる。そして、ふたりっきりになった時、そこに言葉はない。モンタージュの挿入といった芸術性を取っ払い、飾りっ気のない日常風景を映し出した事で親しみを覚えた。監督引退はやっぱり寂しいね。
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