umisodachi

マティアス&マキシムのumisodachiのネタバレレビュー・内容・結末

マティアス&マキシム(2019年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

マットとマックスは幼馴染の親友同士。マックスがオーストラリアにワーホリに行くことになり、出発前に仲間のひとりリヴェットの別荘にみんなで集まることになったが、リヴェットの妹(ウザい)も自主映画を撮るためにやってきた。マットとマックスは出演しないといけなくなり、しかもディープキスをさせられる。その瞬間、ふたりは互いへの気持ちに気付き始め……。

なんつー!なんつー悶絶映画!!めっちゃ恋愛!!

恋愛映画は数多あれど、「恋を自覚する過程」を描いた作品ってそう多くはないと思う。最近それを強く感じたのは『あなたの名前を呼べたなら』で、それはそれはロマンチックだとウットリしたのだが……本作も「恋を自覚する過程」を見事に描いていたー!!わかるー!!!(すいません取り乱しました)

以下、私の勝手なストーリー解釈を書き殴ります。

ぶっちゃけマットは超絶にめんどくさい男だ。ちょっと頭がいいからと常にうっすら上から目線で空気読めないし、「いやここでそのツッコミないから」というクソつまんないツッコミするし、やたらプライドが高くてナチュラルに素直じゃないし。もうね、自分の周りにもこういう子がね、いたわけですよ。私自身もちょっとそんな感じのキャラだった気もするし。周りから見ると感情が手に取るようにわかるんだけど、本人は無自覚だし自分は完全に冷静な人間だと思っちゃってるのね。悪意がないから「仕方ねえなあ」っていう感じで周りは受け入れているんだけど、「うわーめんどくせー」としょっちゅう思われちゃうタイプ。

片や、マックスはいつもニコニコしていて控えめで、皆に好かれるタイプなんだけどちょっと頼りない。敵がいないかわりに本心もよくわからないタイプ。哀しくても怒っていても隠しちゃうというか。

母と息子の歪んだ関係ばかりを描いてきたドラン映画史上、最悪ともいえる母親を持つマックスはすごく抑圧されていて、オーストラリア行きも逃避なんだろうなっていう感じ。浪費家で自堕落で薬漬けの母親の面倒を必死で看ているのに、母親は自分に対しては悪態をついて金をせびるばかり。愛情を向けるのは弟にだけ。(私はマックスは最初からマットへの恋愛感情を自覚していたと思っているのだが)大好きなマットも婚約者がいて側にいるのも辛いだけだし、顔にある大きなアザは人目を引いて仕方がない(アザをメタファーとして象徴的に扱うの上手かった)。金もないし逃げたくもなるわな。

おそらく、友人のリヴェットやフランクもマットとマックスがお互いに想い合っているのは学生時代から気付いていたはず。キスシーンを覗いているシーンで、「高校のときのマックスとのキスをマットが『覚えてる』なんて言うわけないだろ。死んでも覚えてないって言うよ(大意)」と言っていたしね。マックスは自分の気持ちには気付いていたけれどマットの気持ちには気付いていなくて、マットは自分の気持ちにすら気付いていなかったのだろう。

マットがマックスへの恋心を自覚してからのカメラワークは「片想い中の人」そのもので、マックスのなんでもない仕草を目で追ってみたり、どうしても気になって仕方ないという気持ちが溢れていた。一緒にいたいのに一緒にいるのが怖い……わかる、わかるよ!!なんか浮き足立っちゃってイライラしちゃうのもわかるよ!気付かなければ近くに行けたのに、なんで気付いちゃったんだー!ってなるんだよね、わかるよ!!さらに、周りで見ている友だちが「もうバレバレなんだよ!ヘタクソか!早くあいつと話しに行って来いよ!」となるのも、わーかーるー!!!若い頃の人間模様を思い出して後半は悶絶しっぱなしだった。

とはいえ、全編を通してベタベタの恋愛映画かというと全然そんなことはない本作。マットとマックスが一緒にいるシーンはけっこう少なくて、基本的にはそれぞれの生活がパラレルに描かれている。弁護士事務所で期待されつつ、しがらみや面倒な接待にも駆り出されちゃう中堅に差し掛かったころのツラさとか(マット)、いい年をして経済的にも苦しいし家庭も上手くいかないし、全然一人前になれていない焦燥感に駆られているツラさとか(マックス)。もう若者ではないふたりの男の人生のタフネスと、カナダ出国直前というバタバタの中で浮上した思わぬ恋愛感情とで、色々とこんがらがっていく様子が複雑で良い。シビアでツラい部分と、切ない部分と、(おもにマットの)不器用で可笑しい部分と、恋心に萌える部分と……最後まで自分の感情の色々な部分が刺激され続けて忙しかった。

私までマックスにドキドキしちゃうくらいのめりこんでしまったので全然冷静にレビューできないのだが、どうやら「ふたりの気持ちがよく分からん」ってなる人もいるみたい。あんなに分かりやすかったのに!なぜ!!2回目のキスシーンとか、恋が溢れて気を失うかと思ったけども!その直前のゲームのシーンとか、わかりみしかなかったけれども!マットめんどくせえ!リヴェットが気を利かせてくれたのに、なんなんだよそのマックスとの距離感!

さりげないラストも良かった。ふたりは結ばれないかもしれないけれど、マックスのマットへの想いは報われたし、友人たちのおかげでマットも素直になれた。好きな人が自分のこと想ってくれてたって知っただけで満足、みたいなところありません?(←知らんがなって言わないで)

マットの絵を発見したときのマックスの気持ちといったら……推薦状についてマット父の秘書から電話が来たときのマックスの気持ちといったら……ああ!ちょっともう言葉にならない!たぶん、その感情だけで生きていけちゃうよね。

リヴェットとフランクのナイスアシストっぷりも最高でした。私もああいうのやったことあるなって懐かしかった。

あ、マットに青い服、マックスに赤い服を着せている点とか(キスシーンでは反対の服を着せてる)、映画的な演出もふんだんで良かったっす!今回その辺全然言及しなかったけど、そういう色々な仕掛けがある作品でもあった。




umisodachi

umisodachi