やまぞう

その手に触れるまでのやまぞうのレビュー・感想・評価

その手に触れるまで(2019年製作の映画)
5.0
2019年カンヌ国際映画祭で監督賞を受賞したダルデンヌ兄弟監督の新作。

ベルギーの移民系家庭で育ったごく普通の少年が、ある日突然イスラム過激派思想に感化され、
リベラルなイスラム教徒である女性教師を“聖戦”の名の下に殺害しようとする。

主人公の少年アメッドは、のび太君がラーメンの小池さん髪型になったような、
内向的で真面目な13歳の少年である。

イスラム教の礼拝所に通い、イマーム(導師)の説教を熱心に聞くアメッド。

ほんの1ヶ月前まではテレビゲーム好きの無邪気な少年だったアメッドの変わりように、
母親も戸惑いを隠せない。

尊敬するイマームの教えに感化され、次第に過激な思想にのめりこんでゆくアメッド。
そして、事件は起こる。

本作は、平凡な少年が何故、どのようにして過激な宗教思想に囚われたのか?を描いているのではなく、
狂信化した少年がその過激思想から抜け出せるのかを描いている。

少年アメッドに寄り添うようなカメラワークは、ほぼ心情を吐露しない彼の表情を映し出す。
元々内向的なせいなのか、逡巡も呵責もないような無表情で、何としても女性教師を殺害せんとする彼の行動にハラハラもんである。
未熟で純粋な心に巣食った狂信は取り除くのが難しいのだろうか。

母親をはじめ、多くの人が彼を説得しても“聖戦”が正しい行いと信じ込んでいる彼の心にはなかなか届かないのだが、
そこはまだ13歳。思春期でもあるからして、更生プログラムで様々な人や動物と接してゆくうちに、
笑顔やとまどう表情がほんの少しだけ垣間見えると、ホッとする自分がいた。

原題は『Le Jeune Ahmed』(若きアメッド) なのだが、今回は邦題の「その手に触れるまで」の方がなんかグッとくるなぁ。

観た後にジワジワと響いてくる傑作であった。
やまぞう

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