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シェイクスピアの庭のtaruponのレビュー・感想・評価

シェイクスピアの庭(2018年製作の映画)
4.3
シェイクスピアの庭、まるで舞台をみるような作品で、すごく心に沁みる佳作だった。(フィルマークスでの評価がさほどに高くないのは、なぜ???)私個人としては、ケネス・ブラナーのシェイクスピアに対する愛に感謝したい。

この作品は、主人公がシェイクスピアという著名な人物であることを置いておいて、バリバリ働いていた都会(ロンドン)での仕事から、離れていた家族のもとに返ったはよいが、妻や娘たちからは距離を取られている男の家族との再生の物語であり、失った息子に対する肥大した思い入れだけを抱えて家族の現実と向き合っていなかった男が、家族の現実と向き合い、お互い目をそらし隠してきた現実をさらして歩み寄っていく話である。
また、シェイクピアの話として見た時、悪妻という評価が一部にあるアン・ハサウエィとシェイクスピアの関係性、またアン自身のキャラクター、アンには「家で2番目に立派なベッド」を遺産として残したという史実の意味するところ、サウザンプトン伯爵に捧げたソネットの意味するところ、グローブ座の火災により断筆して家族のもとにもどった心情等、もちろんこの映画自体1つの解釈にすぎないのだが、興味深く天才シェイクスピアがすごく人間的なものに思えてくる。

アン役のジュデイ・デンチが秀逸。8歳年上でできちゃった婚をして、読み書きができない自分を恥じながらも妻としての未来を夢見ていただろうに、夫はロンドンに行ってしまい名声を得ていく。たまにしかもどらない夫、自分は重きをおかれないものとしての諦観とそれでも夫の作品を見たりすることで夫の事を知ろうとしている気持ち、自分の領分である娘たち家族を守っていきたい思い そういったものがないまぜになった思いの表情、最初は夫のことはあくまでも客として扱い、自分の寝室には入れない頑なさ、それが少しづつお互い歩み寄り、最後に寝室(家で2番目に立派なベッド)に招き入れるまでになる過程、ジュディ・デンチの抑えた表現が心を打つ。

ストーリーのメインの1つである夭折した一人息子ハムネットの死が、なぜ引き起こされたのか それが明らかになっていく過程とシェイクスピアの心情も興味深く静かな涙がとまらない。

映画の中では、いたるところにシェイクスピアの作品が散りばめられてることにもハッとさせられる。
ヘンリー8世、タイタス・アンドロニカス、真夏の世の夢、冬物語・・・・

ストラッドフォードの自然が絵のように美しい。
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