まりぃくりすてぃ

おろかもののまりぃくりすてぃのレビュー・感想・評価

おろかもの(2019年製作の映画)
4.4
良質なインディペンデント邦画は日本国民への清々しい救い。拙い要素があって序盤は入り込みにくかったけど、終わりまでには本作がロメール平均を凌駕してくれたのをみた。(足りてない点を探せば、キャメラのアートみ、それと各々の骨格的な美形度。でも長編の効力で、結局ほぼ全俳優のお顔が当たり前に愛おしく綺麗化。)
一見、力の抜けた愚かさの数珠つなぎストーリーであり、“各キャラを類型的にチャチャッと造って、あとはプロ俳優の魅力頼みで適当に、華やかに” だけしておく、という無気力な選択肢も邦画界にはありうる。現に多くの商業邦画がそんな感じ。ところが本作は、妹(高校2年の主役)・クズ兄・兄の婚約者・兄の浮気相手、というキャラたち(~脇キャラ~さらにはエキストラたち)に演技者も演出者もリアルな魂を込めようとした結果、すべての役がわざわざ難役になった! この丁寧な励みを見よ!! カフェでの隣テーブルの無言女性役、バーテンダー女性役、披露宴の参列者役一人一人らに至るまで、多くが自分の役を本当にわざわざ難役にした上で “その時点での人生経験のありったけ” をそこに入れて演じたみたいだった。尊いね。(同級生役とか何人かは微妙かもだったけど。)
特にやっぱり、メインの4人。天賦の才や小手先の技で仕事と自己主張をしてるんでなしに、命を(しかも気負わず)吹き込んでくれた。情けない立場の婚約者役の猫目はちさんの終盤の重みの増しを見よ!! はちだけじゃないよ、チェスか将棋の決めみたく人物配置が(位置関係から表情まで)凄まじく効いてる、この結婚式フォーメーションを見よ! しばしば横顔が泣き始めっぽくなる兄役のイワゴウさんも、尻上がりにお見事。モノローグが最初邪魔だったヒロインの笠松七海さんを、もちろん演技的には終始一貫の強度の持ち主だったと褒めなきゃいけない。シナリオ上から一番の難役へと祭り上げられた浮気相手・村田唯さんは、背伸び気味の演技だったんだろうけど、その苦しげが、じつは作品世界の正当な苦しげであり、、つまりは、馬鹿っぽ人間たちの阿呆な話を受け取り受け取りするうちに私たちはだんだんせつないキブンになってくるのです。切実な映画なんだ、といつしか気づいて、各キャラの “実存” をかなりハッキリ感じて、そこから先はもう夢中でクライマックスに抱き込まれていったのです。。。
キャメラの件に戻ると、ピンの切り替えとかクローズアップとかがちょっとわかりやすすぎて「はい、今ここを見てね〜」が行き届きすぎてた。終わってみるとただの秀作なんだけどね。