古川日出男の小説「平家物語 犬王の巻」をアニメ化した湯浅政明監督作で、能楽を題材に、室町時代に人々を魅了した実在の能楽師・犬王をポップスターとして描いた作品。
前作である『きみと、波にのれたら』がイマイチのれなかったので、若干心配しつつ鑑賞したが、本作は最高だった。今思えば、脚本が野木亜紀子の時点で心配は無用だった。
犬王を室町時代のポップスターとしてギリギリあり得るラインで描きつつ、ポップスターたる所以を一から創造した苦悩は計り知れないと推測されるが、その懸念を見事に払拭している。
特に、アヴちゃんが歌い上げる挿入歌「腕塚」「鯨」が流れるシーンは必見で、アニメーションと歌詞とストーリーが完全にマッチしており、バイブスぶち上がること間違いない。
テレビアニメ『平家物語』を視聴した上で鑑賞したが、あまり関係なく、予習なしで気軽に観れるので、人に勧めやすいのも良い。
語り継がれる歴史と語り継がれない歴史。歴史は誰が作るのかなど余韻がたなびく傑作だった。
ただ、気になる点がひとつ。それは猿楽が能楽となって広がっていった歴史とは反するストーリーだったのではないかということ。猿楽は”猿真似で楽しむ芝居”から来ているのだが、足利尊氏が猿楽師の観阿弥を保護した背景として、芝居を使って武士道を広めたかったと言われている。つまり、武士道というひとつのものを広めるためには、誰が芝居をしても同じように見えないといけないため、面を被ったわけである。このことから、面を取り外すストーリーと能楽の歴史は相容れないのではと歯痒く思った。
