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ドリームプランの06のレビュー・感想・評価

ドリームプラン(2021年製作の映画)
4.3
ドリームプラン!
自己肯定感と、恐怖の記憶と、宗教のような話だった。

娘が産まれる前から、ドリームプランと言う、娘の未来を綴った預言書を作った父親。
他人からは虐待にも見える厳しい訓練を娘にさせ、強引な手をつかい娘を出世させる。

その行動の根源は恐怖だ。
「娘をヤク漬けにも、撃ち殺させもしないため」

娘を守る、という強い意志の裏側には、己が受けた差別による暴力の記憶がある。だからこそ、より一層頑なになって、娘を守るために他者に横暴な態度をとり、娘の望む未来を阻みもする。

ドリームプランは、娘への愛の結晶ではない。キング・リチャードの自己顕示欲の象徴だ。でも、それを元にして父は娘たちに愛を伝えていた。
「お前なら出来る」「絶対に勝てる」「お前は世界一になれる」「お前は最高だ」

全ては、ゲットーから脱出してよりよい未来を我が子に掴み取らせるため。

しかし幼い頃からこう聞かされ続け、父親に献身をうけた娘たちはどうだろう?その言葉を信じ切る。リチャードの言葉には、言霊が籠もっていた。特に最後の、 父が妹にかける言葉など、 神の声とほぼ同等の重みがあった。ある意味宗教のようなお話だ。
だが、そのお陰で育まれた自己肯定感の高さにより、娘たちは己の才能を信じて努力を続けて試合に勝つ。

テニスのジュニア大会のシーンは特に、肯定感の対比が強い。娘たちが「私は勝てる」と唱えるのと裏腹に、対戦相手は「私の馬鹿!」「私最悪!」と自己批判する。おまけに親も「今のプレーなんなの?」と子供を攻める。それは良くない、とこの映画は断じてる。

しかしその教育の結果、後半で父が恐れたのは、偉大に育った娘が背負う未来だった。あの妻と娘との対話のシーンは素晴らしかった。
最後ビーナスが自分で鞄を持つシーンは、親からの自立を示しているようで胸が熱くなる。


にしても、コーチのリック・メイシー!ジョン・バーンサルがやってるから、裏切りやしないかとひやひやしていたが、ただの推しに弱いいい人だった。

物語が進行するにつれ、赤と白がメインだったリチャードの服装が、黄色に、青にと変わっていくのも面白い。


世界一の子育てという偉業の裏には、強迫観念と恐怖の記憶と、家族への愛が詰まっている。そんな映画だった。
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