シュローダー

ANIMAのシュローダーのレビュー・感想・評価

ANIMA(2019年製作の映画)
5.0
ポールトーマスアンダーソンの熱心なファンとしては、今回のこの映像作品だけでも、彼の才能や作家性がとても良く分かる作りになっている。まず、彼十八番のダイナミックなトラッキングによる超長回し。これを色彩が豊かすぎる画面でやられるとめまいが止まらない。そして、映像によって紡がれる物語も、これまたポールトーマスアンダーソンがこれまでの作品でも描いてきた物語を想起させる内容に仕上がっている。まず、アニマという言葉の意味は、ラテン語で「魂」 この映像の中で、地下鉄や街中で奇怪な動きを繰り返している人間たちは、さながら迷える魂そのものである。その中で踊るトムヨークは、そこからの脱出を図る。そこに、1人の女性が現れ、彼を導く。ここで、アニマという言葉のもう一つの意味。ユングが提唱したアニマが浮かび上がってくる。つまり、「男の中に存在する女性のイメージ」の姿である。よくよく考えると、ポールトーマスアンダーソンは女性によって成される呪縛と、女性によって救われる男の両方を描いてきた作家である。「マグノリア」に於けるジョンCライリー演じる刑事の顛末然り、「パンチドランクラブ 」に於けるアダムサンドラー演じる主人公は、姉による抑圧によって植えつけられた"内在する欠陥"("inherent vice")を、恋に落ちることによって乗り越える物語であったし、「ザ・マスター」のホアキンフェニックス演じる主人公は、冒頭で砂で出来た女を抱いている。そして、映画のラストでは生身の女を抱く。そこに至るまでの魂のもがきの物語であった。そして最もわかりやすいのは、近作「ファントムスレッド」であろう。母の幽霊に囚われた男を救うミューズの物語。これらの作品を踏まえた後で本作「ANIMA」を観ると、あのラストショットで起こる感動が、また一つ重層的となるのだ。また、Radiohead繋がりで言うと「Day dreaming」のMVとの連続性も感じた。あのMVで描かれた魂の彷徨いが、今回でも踏襲されている。総じて、ポールトーマスアンダーソンの大ファンとしては、寧ろ彼の作家性が最も端的かつ詩的に表現された傑作であると感じた。彼の「監督作」としても、かなり上位に食い込む傑作だ。