タカ

最初の晩餐のタカのネタバレレビュー・内容・結末

最初の晩餐(2019年製作の映画)
4.3

このレビューはネタバレを含みます

俺たちは互いに知らないことだらけだ

のびのびの麺と真っ黒に色の濃いスープ
閉店間際の暗がりでそそくさと頬張るラーメンが明らかに不味そう
向かい合った二人の箸はどこか急ぎ気味で
楽しむというよりもすきま時間に流し込む食事

そう。ここは病院でふたりは姉弟
65歳の父を看取りにきた
世間話もそこそこに病室に戻るふたり
お会計は、
「"お母さん"からお金預かってるから」
「こんな時だけ"お母さん"かよ」
そんなやり取りがとげとげしくって引っかかる
何があったのかな?
前のめりになったところで場面が移り、お通夜の日
冠婚葬祭独特の慌ただしさの中、
リンタロウ、ミヤコ、シュン、母、そして父
最初の晩餐が始まっていく


『目玉焼き』
父が初めて振る舞ってくれた料理 

新しい家で二つの家族が車座になった日
母のピンチを助けるため
台所に立った父
冷蔵庫の配置も分からずお目当てのハムがない
急遽代役に立てたチーズ
チーズが溶けて卵と合わさった見た目は
二つの家族が溶け込んで一つになったしるし

スライスチーズを下敷きにした目玉焼き
カリッカリに焼かれ香ばしい香りを放つチーズ
せんべいのような食感が口の中ではじけ
黄身のとろけ・白身のぷりぷりと手を取り合い
口の中で楽しく踊る

でも、目玉焼きばかりの食事は勘弁して〜

『お味噌汁』
家族が初めて衝突した料理

朝の食卓に立ち上る湯気
美味しそうな匂いが漂う
だけど、、あれ?いつもの色と違う!
赤味噌と白味噌、異なる家庭の味
「嫌なら食べなきゃいいじゃん。」
じゃんって何だよ!
味の違いだけじゃない一緒に暮らす難しさ
母が下す解決策は?

合わせ味噌の具たくさんのお味噌汁
赤味噌のコクのある塩味と白味噌のほっこりする甘味が混ざって舌は大満足
大根もごぼうもにんじんも
味が滲み出て身体も心もポッカポカ

思わず笑みが溢れる朝のひととき

『しめじのピザ』
山登りに欠かせない鉄板料理

5人で一緒の山登り
まだ少しの距離感はありつつ
一枚のフレームに収まった家族
日本アルプスで鳴らしたたくましい背中が
目に頼もしく映り
さらなる高みへ男どうしのアタックは続く

キノコの香りが鼻腔に広がり
芳醇なチーズの匂いが食欲を刺激する
もっちもちの生地、とろっとろのチーズ、シャキシャキのしめじ
自然の空気がスパイスでおいしさ倍増

家族みんなのお出かけににっこにこ

『シーチキン入りギョウザ』
母の不在中、みんなで作った料理

突然の知らせに泣き崩れた母
何か大変なことが起きてることは分かるけど
どうすることもできない
今できることは力を合わせて帰りを待つこと

完成形は見えず、、どんな味だったのかな?

『ラーメン』
5人で囲む最後の料理、5年間の締めくくり

台風の夜
嵐の空気が家の中をも支配して
部屋にこもっていたシュンがひとこと
「明日、この家を出る。」
誕生日を翌日に控えているのに
山登りを教えてくれると約束したのに
ここから家族が始まると期待したのに

作り上げたものがガタガタ崩れる瞬間
それは台風一過の庭先にも似て
元に戻る術がない

ストレート細麺と豚骨スープ
紅生姜が添えられて
ミヤコが作った夜食のラーメン
博多ラーメン独特の味は見るからに美味

でも、無言で食べる後味はまったくの無味

『すき焼き』
父が我が家で食べた最後の料理

見舞いに駆けつけたシュンの姿
すべてを知ってそれでもなお
戻ってきてくれたことへ
言葉にならないうれしさ
満足に味わえないその姿が
何とも心を揺さぶって
夢を継いだ息子に送る言葉
あの頃と違い弱りきったその背中
いくら我慢しても涙は溢れる

おいしさ保証付きのTHE日本食・すき焼き
ラー油でつけたアクセント
醤油砂糖の甘辛とラー油の辛味
間違いない

最後の食事はみんなで囲みたかっただろうな


家族ってなんだろう
なぜ家族になろうと思うのだろう
煩わしいだけじゃないの?
どうしても自分の家族が分からない

煩わしい、確かに煩わしい
だけどそれは愛してるが故の煩わしさ
一緒に居れることが心から良かったと思える
そのつながり
けっして遅すぎることはない
父の想いがたくさん詰まったその食卓で
4人が囲む最初の晩餐
吐き出した想いを分かち合い
4人、いや5人の家族はこれから始まる
タカ

タカ