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フォロウィングのfujisanのレビュー・感想・評価

フォロウィング(1998年製作の映画)
3.7
『クリストファー・ノーラン長編処女作にして、既に完成されていた時制の魔術』

この度、ようやく「オッペンハイマー」の日本公開が決まったということで、クリストファー・ノーランの過去作を整理。まだ観ていない三作のうちの一作、「フォロウイング」を視聴しました。

本作は2001年に「メメント」で大ブレイクする前の1999年の作品で、本職で仕事を持つ仲間が週一回集まり、一年を掛けて制作された70分のモノクロ映画。監督インタビューによると予算は6000ドル(今のレートで100万円ぐらい)とのことで、かなりの低予算です。

こう書くと、雰囲気的には同人映画のように思えるかもしれませんが、さにあらず。今スクリーンで上映しても十分に面白いハイレベルな映画になっていました。



クリストファー・ノーランは、
映画「メメント」では時系列を逆回転させ、「ダンケルク」では進み方の異なる3つの時間を同時に再生し、「TENET」では正方向と逆方向の同時に時間を進めさせた、時制の魔術師。

そんな魔術師ぶりは、すでに長編デビュー作の本作で完成されていました。

映画の主な登場人物は3名。
・主人公(ビル)… 無職で小説家を目指す男
・コップ … 謎の男。スマートに盗みを行う悪党
・金髪の女 … マフィアのボスの愛人

売れない小説家のビルは退屈しのぎに街行く人の一人を定め、尾行(FOLLOWING)するのが趣味。ある日、一人の男、コップを尾行したことから、彼の人生は狂い始める・・・というストーリー。

本作は、70分の映画を細かい章でぶった切り、時系列をバラバラにシャッフルして再構成した難解な作品。

ただ、低予算ながら凝ったカット割りと最低限のセリフで進んでいく物語はスタイリッシュで観る人を飽きさせないものでした。

本作はおそらく一度も配信に掛かったことがないと思われ、私もTSUTAYAで借りてきたのですが、TSUTAYAも少なくなってきてますので、お早めに是非。



時系列の考察について:

本作は時系列がバラバラにシャッフルされている分、ある意味、逆方向とはいえ一方向に進む「メメント」よりも複雑かもしれません。

また、大ヒットした「メメント」とは違い、マイナーな作品でもあるので、考察ブログも少なく、ヒントが少ない映画。

ということで、以下ひさびさに完全ネタバレで考察を残しておきます。

























本作DVDには、シャッフルせずに時系列順で編集された『クロノロジカル・シークエンス版』が収録されていました。

ただ、時系列版とは言え、刑事に対して過去の出来事を供述する形なので、入れ子構造にはなっており、単純になるほど!とは行かない内容でもありました。

以下、乱文&長文となりますが、考察メモです。

■ 前提
・金髪女性は、マフィアのボス(ハゲ男)の愛人
・コップは、マフィアの手下
・しかし、コップは金髪女性と付き合っている
・コップはボスの金庫から金を盗みに行くが、現場には老女の死体があり、逆に警察から殺人を疑われている
・そこへ、間抜けなビルが登場する

■ 見やすくなるヒント
・主人公ビルの姿が途中で変わるため、今どの時間のシーンなのか分かりやすくなっている。
・古い順に上から、
①長髪でだらしない格好のビル
②髪を切り、スーツを着ているビル
③短髪でスーツを着ているが、顔を殴られた後のビル

■ 時系列:入れ子構造
・上から下へ、時間が流れている

□ 冒頭:刑事の取り調べのシーン-1
・ビルが刑事に、自分の尾行趣味の話をしている

□ ビルが刑事に話す回想シーン
・ビル①がコップを尾行しているが、尾行はコップにばれる
・自分も同じ趣味があるというコップと、一緒に空き巣をするようになる

・ビルとコップが金髪女性の自宅を空き巣し、私物を盗む
・コップはビルに、盗品はお前が換金しろ、と預けたままにする ★

・コップはビルとレストランに行き、別で盗んだクレジットカード(D・ロイド)をビルに預け、サインして支払わせる ★
・コップはビルに、お前も身なりを整えろ、と指示
・ビルは髪を切り、スーツを着るようになる(→ビル②)

・コップと金髪女性が部屋でくつろいでいる
・コップは金髪女性に、自分にかかっている殺人疑惑を晴らすため、ビルに身代わりをさせると話す。金髪女性も協力することに

・ビル②はそんな事も知らず、金髪女性を自宅に誘うことに成功
・金髪女性はビルに、マフィアのボスに盗まれ、大事な写真が金庫にしまわれている。金庫の番号は知っていると話す
・金髪女性に夢中なビルは、それを盗むと約束
・ビルはコップに協力を依頼するが拒絶され、逆に殴られる(→ビル③)

・ビルはコップにしつこく教えを請い、ハンマーを持っていけと言われる
・ビルは一人で金庫破りに。金庫は開き、大金と写真を手にするが、犯行に気づいた男をハンマーで殴り殺してしまう
・ビルは大金やハンマーを持ったまま、頼まれた写真を持って女性宅へ行く ★
・しかし写真に意味はなく、ビルは危険な目に合わせた女性にブチ切れる
・金髪女性はビルに、あなたはコップの身代わりで捕まるのだだと告げる
・ビルは警察へ自首する

□ 刑事の取り調べのシーン-2
・ビルは刑事に、全ては金髪女性とコップが仕組んだことだと話す
・しかし、刑事はコップなんて初耳だし、老女殺しなんて発生していない、と

□ 回想シーン
・コップは金髪女性宅を訪れ、ビルへの身代わり成功を二人で喜ぶ
・コップは、ボスの命令だと言って、ハンマーで女性を殺す(女性がボスの殺人現場を見ていたと言う理由)

□ 刑事の取り調べのシーン-3
・刑事は続ける。ハンマーには2種類の血痕があり、ひとつは金庫前で死んでいた男の血、もう一つは金髪女性のもので、金庫の番号を聞き出すために、お前が殴って殺したんだろう、と
・さらに続ける。お前の自宅から女性の私物が出てきた、と
・ビルはコップの住所を調べろと詰め寄るが、刑事は言う。その住所はD・ロイドと言う男性のもので、クレジットカードを盗まれていた。そのカードはお前が持っているだろう?、と

□ エンディング
・大金を手にしたコップが、街なかの雑踏に消えていくシーンでおしまい

<解説>
・上記の★部分で、コップが序盤から巧みにビルに証拠を持たせていた事がわかる
・金髪女性もコップと協力して上手くボスから大金を手に入れようとするが、コップのほうがさらに上手だった

ということで、時系列で並んでいても入れ子になっていて、割と複雑。しかもこれをバラバラに再構成しているので、初見で見て理解出来る方は天才だと思います。

以上、ご参考まで。




2023年 Mark!した映画:348本
うち、4以上を付けたのは40本 → プロフィールに書きました
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