こたつむり

私の秘密の花のこたつむりのレビュー・感想・評価

私の秘密の花(1995年製作の映画)
3.7
それは岩(ロカ)の割目に咲いた花。
愛に振り回される女性の物語。

心臓が動いても。呼吸をしていても。
脳が機能を停止したら“死”と捉えるように。
夫婦の形も同じ。
泣いても怒っても足元に縋っても。
そこに“愛”がなければ、既に死んでいるのです。

そんな恐怖と感傷に満ちた物語を描いたのは“スペインの不沈艦”アルモドバル監督。さすが、女性の視点で物語を描かせたらピカイチですね。

しかも、悲劇を悲劇で終わらせるのではなく。
再生の形も描くからバランスが取れているのです。

それに、主人公を演じたマリサ・パレデスは当時49歳。日本の女優さんならば“お母さん役”が多くなる年頃ですが、本作では大いに惑います。自分が抱えた愛に翻弄されるのです。

でも、それって監督さんからしたら当然の姿。
女性は何歳になっても女性。
不惑と呼ばれる年齢を越えても、愛が枯れるわけではなく。「まだまだ現役なのだ」と力強く言っているのです。だから、真正面から“ありのままの姿”を描けるのですね。

そして、それでいて繊細な筆致。
白い紙きれが舞う風景。
田園を背景に朗読される詩。
食卓の上に咲く一輪の花。
些細な情景が胸を締め付けるのです。
いやぁ。なんとも見事な“愛に惑う人たち”への応援歌。思わず涙腺が緩みましたよ。

まあ、そんなわけで。
「人生は矛盾に満ち、時に公平である」と主人公は言いますが、その言葉を顕現させた物語でした。時系列で言えば『オール・アバウト・マイ・マザー』などの“女性三部作”の原型と言えるかも。だから、監督さんにしてはシンプルな筋書きも、逆に感慨深いものがあります。

…最後に余談として。
本作で一番格好良いと思ったのは“アザラシ”。あの懐の深さは真似したいな。あおあおっ。
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