ひでやん

劇場のひでやんのレビュー・感想・評価

劇場(2020年製作の映画)
3.9
縦のヒモはあなた
横の糸はわたし
織りなす布はいつか綻ぶ…。

無精ヒゲを生やし、髪はボサボサで無気力な男を演じた山崎賢人。今までのイメージとは違うダメ男役は良かった。こんな役もできるのかと感心したが、松岡茉優の存在がデカ過ぎた。もうね、後光がさしてた。永田が彼女を「神様」と呼んだのも頷ける。後半で彼女から笑顔が消えた時、見ているこっちがもの凄く不安になった。

演劇の世界で成功を信じる男と、彼をそばで支える女の物語で、会話の言葉選びが面白い。2人が出会ってすぐ、酒を殺し屋に見立てて話す会話やクレープの話はずっと聞いていたくなった。で、演劇の脚本を書くだけあって独創性がある永田なのだが、魅力度1、面倒くささ99という感じで、どうしようもない奴だった。

劣等感に苛まれ、嫉妬に狂い、プライドが邪魔をして素直にお礼も言えない。才能がない事を自覚するもそれを認めず、口先ばかりで甘えっぱなし。バカだなと思うが、まったく理解できないわけでもない。無垢の優しさに触れると尚更惨めになって八つ当たりってのは、解らなくもない。

とにかく沙希がいい子過ぎた。「私の包容力は53万です」とフリーザのように言ってほしい。スカウターを破壊するほどの天使パワーだった。ダメ男といい子の共依存だが、モノローグが良くも悪くもあった。原作が又吉直樹の小説という事で、永田のモノローグによって文学的な小説の世界観が生まれたと思う。だけど全部語っちゃうより、コイツ今何考えてんだろ?と、間や表情から読み取るシーンがもう少しあれば良かった。

自転車を2人乗りして桜を見に行くシーンが一番好きだった。タイトルの意味がドンと胸に迫るラストもいいね。沙希が壊れないように彼女の思いを受け入れ、自分のために自我を壊して再生するも、安全な場所が壊れてしまったのは切ない。
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