時間と光、大地と風、あなたとわたし、わたしとわたし自身──中国の新聞「南方都市報」の依頼で作られた短編映画。原題も『我們的十年』で、1997年から2007年の10年間を指していることが途中のキャプションで明らかになる。進行する電車の最後尾から線路をとらえたショットから映画が始まる。木造の小さな電車がそれほど速くはないスピードで走って行く。車内に切り替わると、黄色みがかった色合いの木の壁と窓から差し込む柔らかな光が目に入ってくる。電車の中には賈樟柯のミューズ、趙濤(チャオ・タオ)がいる。趙濤は黒髪の少女とすれ違う。少女はスケッチブックに趙濤の絵を描いている。線路のショットが挟み込まれ、乗り合わせる周りの人や趙濤と少女の服装が変わっていることから、この電車の車内が時間的な連続性を有していないことがわかる。少女の持ち物はスケッチブックから8ミリカメラ、ポラロイドカメラへと変わっていく。ついに、2人だけの時間が訪れる。SARSの流行期ということなのだろう、ふたりはマスクをしている。少女は趙濤に、「你怎么一个人啊」(“Why you are with yourself?”)と問いかける。趙濤は「你怎么老是一个人啊」(“Why you are always yourself?”)と返す。
時間と光、大地と風、あなたとわたし、わたしとわたし自身。9分の短編がこんなにも豊か。大傑作でした。賈樟柯の作品けっこう観てるけど、フィルモグラフィーの中でもトップクラスにお気に入りの1本になった。電車の最後尾の扉が開いたままフラフラと揺れドアの向こうに小さくなっていく線路が見えるシーンは、『Bi Gan | A SHORT STORY / ビー・ガン | ショートストーリー』の電車の扉を先取りしているかのようだ。同作とは少し異なる質感の柔らかく吹き込む風を感じられる。