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FUNAN フナンのikumuraのレビュー・感想・評価

FUNAN フナン(2018年製作の映画)
3.9
アヌシー国際アニメ映画祭でグランプリを受賞。
地元のインディー系映画館に来たので早速行ってきました。
(リクエストしてFilmarksに載せてもらったのだが、まだポスターもないようなので、
トレーラーを貼っておきます:https://youtu.be/EQY3iNOiSN0)

70年代のカンボジア、ポル・ポト派(クメールルージュ)統治下のある家族の話。
監督も幼い頃にカンボジアからフランスへ難民としてやって来ており、
母から聞いた話をもとにしたこのアニメがデビュー作だそうである。
西洋化された視点も入っているのだろう、という一方で、
制作がフランス・ベルギー・ルクセンブルクに加え
カンボジアのスタジオも入っているということで、
しっかりルーツに立ち返ってもおり、
記憶の継承のあり方、という点でも興味深い。

主人公の家族は首都・プノンペンの中産階級で、
政権を握ったポルポト率いる極左政権により農村送りになってしまう。
途中まで自家用車と一緒に移動して、それを取り上げられてしまうという、
まさにポルポト派に標的にされそうなブルジョワ感を漂わせる。
ポルポト派は「資本家・ブルジョワ殲滅」をガチで実行しようとして、
医者や弁護士のような都市で専門職を持つ人たちから真っ先に殺していったので、
内戦終結後の再建が極めて困難になったほどなのだそうである。

途中で主人公の少年がおばあちゃんとともに行方不明になり、
両親がなんとか生き延びながら行方を探し続ける・・・
というのがメインのストーリー。

食べ物もロクに与えられない中での過酷な労働、些細なことからの拷問・処刑、
その中で登場人物たちがどんどん死んでいくか、人間性をジワジワと削り取られていく。
一見すると穏やかなカンボジアの自然との対比がまた残酷さを増幅させる。
幅広い層が見られるよう、直接的な描写は控えられているのだが、
数年に渡る緊張感と苦しみを追体験するのは、他の戦争映画よりもある意味過酷な鑑賞経験であった。
(「追体験」などというのもおこがましいですが・・・)

信奉するイデオロギーから導き出される政策をそのまま実行する恐ろしさ、
その中でみんなが生き延びるために取る行動に、
もはや適用すべきモラルが何なのか分からなくなるということ。
もちろん、全体として圧倒的な被害者はほとんどの民衆なのだが、
その中で、生き延びて、何らかの形で加害者にならざるを得なかった人もたくさんいるのだろう。
同じ人が、別の局面で、人を裏切ったり、利他的になったり、ということもあり得、
「汝裁くなかれ」という言葉が頭をよぎるが、
実際、こういう圧政下や内戦で犯された罪をどう清算していくかは、
こういう体験をした国で常に課題となり、なかなか答えが出ない。

あと思い出したのはライフ・イズ・ビューティフルかな。
あちらでは、子供にトラウマを与えないようお父さんが収容所の残酷さを必死に隠すわけだけど、
この映画では徐々に目の当たりにし、気づいていく過程がなんとも言えず悲しい。

何れにせよ、ストーリーも絵柄も必見だし、背景となる歴史も多くの人に知ってほしいことなので、
日本でも上映されることを願います。
(千歳国際映画祭にも去年来たみたいですが)
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