エイデン

ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバーのエイデンのネタバレレビュー・内容・結末

-

このレビューはネタバレを含みます

アフリカの超技術国“ワカンダ”
国王にして国の守護者“ブラックパンサー”であるティ・チャラが病に伏せてしまう
ティ・チャラの妹で天才科学者のシュリは、兄を治そうとブラックパンサーの力の源である“ハート型のハーブ”を人工的に作り出そうと試みるが失敗
間も無くティ・チャラは母ラモンダ女王に看取られて息を引き取る
ティ・チャラは国を挙げた盛大な葬儀で見送られるが、シュリやラモンダら残された人々の心に暗い影を落とすのだった
それから1年後
ティ・チャラ亡き後、ワカンダの指導者となったラモンダは様々な問題に追われていた
かつて王位を簒奪したウンジャダカ(エリック・“キルモンガー”)によりハート型のハーブは全て燃やされてしまい、新たなブラックパンサーが不在の中、各国がワカンダの技術の核である希少金属“ヴィブラニウム”を狙っていたのだ
表向きには貿易を迫るのみだった各国だったが、ラモンダはヴィブラニウムが新兵器の製造に使われることを危惧してそれを拒否
ワカンダが国際的にも孤立を進めていく中、ブラックパンサーの不在を狙いヴィブラニウムを奪おうと強硬手段に出る国も現れ始める
そこでスイス、ジュネーブの国際会議に出席したラモンダは、隊長オコエ率いる国王の親衛隊“ドーラ・ミラージュ”によって捉えられた某国の傭兵を見せ、世界に対しワカンダの強さをアピールするのだった
大西洋
CIAの掘削船がワカンダでしか産出されないはずのヴィブラニウムを海底で発見する
しかしその時、海底から謎の軍勢が出現、彼らは圧倒的な力や音波による洗脳で掘削船を瞬く間に制圧
逃走を図ったヘリコプターも、空を飛ぶ男によって破壊されるのだった
ワカンダ
未だ兄の死に心を閉ざすシュリは、現実から目を背けるようにますます研究に没頭するようになっていた
そんな彼女を心配するラモンダは、今日がティ・チャラが死んでちょうど1年であることを告げ、2人きりで話をしたいと持ちかける
都市部を離れ、自然豊かな川辺に腰を下ろしたラモンダは、シュリにティ・チャラの死を受け入れるよう諭す
そしてラモンダは慣習に習い、ティ・チャラの葬儀で身に付けていた喪服を燃やし始めるが、シュリはそれが出来ず兄の命を奪った世界を燃やしたくなるような激情を抱えていることを明かすのだった
そんな折、2人の前に尖った耳に足首に羽根を持つそ“ネイモア”という男が現れる
彼は世界から隠された海底王国“タロカン”の王にして、羽根の生えた蛇“ククルカン”として崇められる人物で、ワカンダと同じくヴィブラニウムを用いた高度な文明を持っていた
ところがCIAが開発したヴィブラニウム検知器によりタロカンの存在が明るみになろうとしており、それを止めるためワカンダに協力を要請しに来たのだ
しかしその実は、ヴィブラニウムの需要が生まれたのはワカンダの開国によるものであり、協力に応じなければ全面戦争をも辞さないという脅迫だった
ネイモアはタロカンの存在を伏せながらヴィブラニウム検知器を開発した科学者を見つけ、殺害するか引き渡すようラモンダとシュリに命じ水中へと姿を消してしまう
ワカンダのセキュリティを簡単に突破する技術力や、強力な軍隊を持つことを示唆する未知の存在の出現に、ラモンダは取り急ぎ例の科学者と接触する方針を打ち出す
それを命じられたオコエは、気晴らしになるかもしれないとシュリの同行を要請
早速2人は、ワカンダと縁深いCIA捜査官エヴェレット・ロスと接触すると、ヴィブラニウム検知器を作り出した科学者が現役のMIT学生であると知る
MITのキャンパスへ飛んだシュリとオコエは、そこでヴィブラニウム検知器を開発した科学者がまだ若干19歳の天才少女リリ・ウィリアムズと出会う
ワカンダのためとはいえ彼女を殺させるわけにはいかないと考えるシュリだったが、2国の衝突はゆっくりと迫っていた



マーベル・シネマティック・ユニバース30作目

2020年、ティ・チャラ役のチャドウィック・ボーズマンが惜しまれながら亡くなったことを受け、大きく脚本を書き直して完成した『ブラックパンサー』の続編

ヒーローの死という衝撃的な幕開けから、ヒーロー不在のワカンダを舞台に、秘匿されたもう1つの海底王国タロカンとの戦いを描く
先に記したように現実でチャドウィック・ボーズマンが亡くなったように、ティ・チャラも死を迎え、作品は大きな喪失感に包まれている
その死を受け入れられないまま始まる2国間の対立
今こそ必要とされるヒーローが不在の中で、誰がティ・チャラを、ブラックパンサーの思いを継ぐのかという重厚なドラマが展開される

大切な人の死に対する喪失感、苦しみは文字通り現実にも繋がり、MCUのファンであればこそより深く共感できる仕様
更にドラマの主な担い手となるシュリはタロカンとの戦いの狭間で打ちのめされ、復讐心へと囚われていく
この辺りは『キャプテン・アメリカ シビル・ウォー』や『ブラックパンサー』でも描かれた復讐による戦いの連鎖というテーマ性にも繋がる
それを基にして設定を捉え直すと、タロカンないしはネイモアも、強力な軍事力を有する外界から閉ざされた鎖国国家で世界に対する復讐の動機を持っていて、まるで『ブラックパンサー』でキルモンガーによって支配されたワカンダのように描かれているのが上手い
まさに国として王としての在り方を喪失から捉え直す物語になっている

ティ・チャラは復讐の連鎖を断ち切り世界に対して手を差し伸べる高潔さを示したものの、現実としてそれは理想型すぎ誰しもができることではない
しかし、だからこそ それを目指すことが必要だという力強いメッセージを感じた
そしてその担い手となる新たなブラックパンサーも継承され、ティ・チャラの思いは引き継がれていく
再び立ち上がるワカンダの姿を通して、平和を志す意志、そしてヒーローの不滅さも感じることができる

もちろんヒーロー映画として、ワカンダとタロカン、新ブラックパンサーとネイモアの戦いも満足できる仕上がり
フェーズ4最終作として、追悼と華々しさに満ちた作品になっているので観ましょう
エイデン

エイデン